マルコは戸惑った。

よくある、いつもの船長の癇癪で動けなくなるほどに殴られ、動けずにいる間に乗っていた海賊船は沈んでしまった。元々雑用係もいいところの、虐げられるだけだった船に思い入れなど何も無かったけれどヤツらと一緒くたに死ぬのは少し嫌だなとマルコを見下ろした大男に思った。

だというのに。

マルコとそう変わらない年頃の少年は、マルコをあからさまな冷たい目で眺めていた。起きたよ。少年がそう声をかけたのはマルコを助けた大男だ。

「あァ、起きたか」

大男が窮屈そうに身を屈めてマルコを覗き込む。びくりと反射的に身が竦んでしまったが、大男は気にしたふうもなく笑ってみせた。

「大丈夫そうだな」

「は…」

上手く状況が飲み込めず、混乱するマルコの視界の隅で起き抜けに見た少年がさっさと扉を潜っていくのが見えた。敵意はない様だが、歓迎もされていない。もう一度大男を見上げるが、目的が全くわからなかった。

「…おれを生かしとく価値はねェぞ」

訝しむのを隠しきれず、開口一番は随分と明け透けなものだと我ながら思ったが事実そうとしか考えられなかった。

大体、まだ子供と言われるような年ではあるが、敵船に乗っていた海賊をわざわざ連れてくる理由がないのだ。

だがそう言ったマルコを意にも介さず、大男は何を的外れなことをと言わんばかりにマルコを見下ろしていた。

「おめェに価値なんざ求めてねぇよ。ガキを甚振る趣味がねぇだけだァ」

「は」

「どこか適当な島で降ろしてやるから、大人しくしてなァ」

ぽかんと、呆気に取られたマルコをよそに大男は素知らぬ顔で扉を潜っていく。ぽかんと、マルコは再度呆気に取られたままその背をただ見送った。

「………は?」

この状況が、全く理解出来なかった。