ナマエという子供がいる。

生まれて一年も経たずに両親を殺され、海賊に拾われた悲運の子供はすっかりと海賊らしい子供に育ってしまった。

飢えて死にかけたトラウマか、人一倍食い意地の張ったところを除けば純粋無垢な子供そのものだというのに、その純粋さをもってして酷く残酷だ。

殺す事に戸惑いがない。戦場に怯えが無い。敵意に恐れがない。肝が座っていると言えば聞こえはいいが、生まれ落ちるとほぼ同時にそんな環境に生きてしまったのだからと解釈するには度が過ぎるほど子供は活き活きと戦場を遊び場にする。

ニューゲートにはそれが恐ろしくて仕方が無い。

底知れぬ素質に無邪気な悪意が合わされば、それは化け物となりうるだろう。そうして必ず悲劇を生む。見え隠れする未来に、この船の誰もが恐々とした。

しかし。

「ニューゲート!みてみて、デカイのつれた!」

ニューゲートに似た、ふわふわとした金髪を跳ねさせながらニューゲートを仰ぎ見た子供は、ニューゲートを信頼しきって笑いかける。周りの状況を理解し、立ち回り、まるで幼さを残した大人の様に振る舞うのにそれでいてこの船に赤子のような無条件の信頼を寄せる。身長よりも大きな魚を釣り上げ、自慢げに見せびらかす姿をもう何年と見続けていれば否が応でも情が湧く。

己が拾ったせいで化け物を生むかもしれないという恐怖と共に、この子供に親心も抱いている。悲劇の予測から目を逸らそうとしている。

そしてそれは、この船の総意でもある。

良くも悪くも強欲で傲慢な海賊達は、愛した子供を手放せない。それが悲劇を生むかも知れぬと分かっているのに、それでもいいと思ってしまうのだ。