じい、と見上げた巨体は戸惑ったように幼子を見下ろした。幼子はそんな事は知らぬとばかりに巨体をまじまじと見上げる。

両親は乳飲み子を残し目の前で息絶えている。海賊と海軍との戦闘に巻き込まれた哀れな一般人。母は咄嗟に乳飲み子をベッドの下に隠した。這いずることも出来ない乳飲み子に残された未来は飢えで死ぬか誰かに見つかり一思いに殺されるかの、どちらにしても死の一択に思われた。

「あー、あー」

乳飲み子が必死に手を伸ばせば、男は酷く躊躇し、そして乳飲み子を怖々と抱き抱える。この数日飲まず食わずで随分とやせ細った乳飲み子は随分と軽い事だろう。男は哀れみとやるせなさを存分にその瞳に浮かべ乳飲み子の顔を覗き込んだ。

「ガキの扱いなんざ、俺ァ知らねぇぞ...」

ぎゅう、と幼子が縋るように掴んだ腕の温もりを見捨てることも出来ずに立ち尽くした男は、空腹を訴えようと顔を顰めた乳飲み子に慌てて荒れ果てた家を漁った。ミルクか、食い物か、なんでもいい。

かくして数日ぶりに空腹を癒されてぐずぐずと甘えるようにぐずる乳飲み子を抱えたまま、ニューゲートは途方に暮れた。ただ途方に暮れながらも、その幼子の瞳にふにゃりとした笑みが映る。

「オメェの名前、何て言うんだろうなァ」

子猫が甘えて鳴くように、夢現でニューゲートに縋る乳飲み子を見捨てることはできなかったのだ。

九死に一生を得た乳飲み子は、置いていかれる恐怖に縋っていた手が睡魔によって力を失っていくのを感じながらその顔に小さく笑いかけた。