「ボンクラ」

いっそ反論する気が失せる、清々しい程の軽蔑した目で言われたものだからマルコは怒りらしい怒りを覚えなかった。

こういう男なのだ。ニューゲート以外に向ける目はまるで縄張りを守る野犬だ。こっちにくるなら噛んでやる。そうだとすると縄張りはニューゲートの周囲ということか。動く縄張りとは周囲が難儀だ。

釣り竿と糸とを持ったままそんな事を考え、じゃあとマルコは野犬に声をかけた。

「やったことねぇんだ、教えてくれよい。夕飯おれの分もやるから」

「全部?」

「えーっと、パン以外」

あからさまにめんどくさそうな目でナマエはマルコを見たが、近くで海鳥が鳴いたのを見上げていいよと頷いた。






「あァ?」

昼寝から起きたニューゲートは異様なものを見た。甲板の半分が魚で埋まっている。その向こうでマルコと、ナマエが楽しそうに笑っているではないか!

「海鳥がいたら魚もいるよ。小魚がいれば大物も来るから」

「へぇ、餌がありゃ集まるんだなァ」

「どうしても飯が尽きたら血を垂らして肉食の魚を呼んだりするけど、デカすぎるのが来ても面倒だからあんまりしないかな」

そう言って振られた釣り竿。マルコという子供はろくでもない大人に囲まれて生きていたらしいが、そのせいか確かに取り入るのが上手いらしい。褒めていいのか分からないが、しかし並んだ二つの背中を眺めていると思わず笑ってしまった。

「あ」

「ニューゲート」

振り返った二人の子供は子供らしくあどけない顔でニューゲートに笑いかけた。

「おめェらそうやってると、兄弟みてェだなァ」