09  



舐めるように酒を飲む。

ウォッカに比べればジュースみたいなアルコール度数だが、甘ったるい味はウォッカよりも飲み応えを感じる。シンデレラなんて洒落た名前のカクテルは、その飲みやすさ故にシンデレラが飲みすぎて十二時に帰れないという意味で付けたらしい。由来を聞いて下世話だと笑った。

「キャプテン?」

横でちびちびと飲んでいたローが、気が付けば大分飲み進めていた。最初に早飲み対決をしたのが悪かったかと頭をかく。負けた方がここを奢るという約束だったのだが、肝心の負けた方が潰れたら払うもクソもない。

「キャプテーン」

比較的酒に強くない男なのは知っていたが、うとうとし出したところを見ると限界らしい。

切り上げ時かとその顔を伺えば、とろんとした目と視線が絡む。エル。薄い唇で小さく名を呼ばれた。どうした、キャプテン。子供をあやすように笑みを返す。

「帰ろーか」

「ああ」

ぐびり、喉を鳴らしてグラスに残った酒を二人して飲み干した。マスター、おあいそ。海賊張れそうな強面のマスターがにこりと笑う。正しい効果音はニヤリかもしれないが、とにかく笑った。

意識のあるローはきっちり賭を守って払い、ふらつく足取りで店を出た。明日は二日酔いかもなあ、後ろ姿を見て一人呟く。強くないくせに飲み過ぎるからだ。

「キャプテーン、船は反対っすよー」

ふらふらとしながら先を歩くローの背中に声をかけるが、振り向く気配も止まる気配もない。やれやれと肩をすくめて後ろをついて歩く。小さいながらも活気がある町は、真夜中だというのにまだ賑やかだ。煌めくネオンを眺めながら歩けば、先日シャチと行った店の看板が見えた。見えて、特になにを思うでもなく視線を外した。先を歩くローは相変わらずふらふらと歩く。

「キャプテーン、どこまでいくんだー」

背中に声をかける。だが、相変わらず反応はない。しょうがないかとそれを追う。そのつもりがあるのかないのか、この先からはホテル街だ。知った上での歩みなのか否かは程よい酔いに浮かされた頭では判断しようがなかった。

ちくり、不意に視線を感じて振り返る。頬の熱を冷やしてくれる風が吹き、歩いてきた道を確認するがそれらしきものは見当たらない。大したことではないかと、歩みを止めないローを追う。どこまでいくんだと小言を一つ。

ふらふらと歩く後ろ姿はいつもよりは柔らかではあるが、どことなく漂う貫禄に似たそれに、やっぱキャプテンなんだなあとよく分からないことを思った。そんな彼がネコだなんて、世の中不思議だと下世話なことも悪気はなく考えた。

くるりと振り返ったローが指差すそこには、小綺麗な連れ込み宿。誘ってくるとは珍しい。にやりと笑ったローは、いつもより色っぽく感じて、むくりと欲が首をもたげた。

「満足させてくれよ、エル」

「アイアイ、キャプテン」

頬にキスを一つ落とせば、ちくり、視線が頬を差したような気がして、唇を離せばローが笑った。





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