書き損じた小説みたいだ。

話は行き詰まり動きもなく低迷し、早々に原稿用紙を破り捨てて次へと目を向けるような出来損ないの話の一旦。

又は鬱々とした主人公を飾るための鬱蒼とした暗闇の一旦。行き交う人々の面持ちはどこか暗く、一様に絶望し下を向いて歩いているようだ、みたいな通行人Bだ。

通行人Bはきっと、主人公のようにどこかで転機があるわけでもなく、そのまま絶望に苛まれて生きていくのだ。そしてエンディングで気の晴れた主人公を良いように飾るため、きっと雨上がりの道路だ、態とらしくすれ違う主人公にあれだけ絶望していた通行人も心做しか晴れやかな表情で歩いていたいたとかなんとか好き勝手に解釈されるに違いない。

お前の都合で晴れるかバーーーーーカ。

居りもしない主人公に理不尽な苛立ちをぶつけて、不意に我に返り虚しくなった。

雨の振り荒む日曜の夕方、じめじめとした肌寒さに身を震わせ、しかし布団を被る気にもならない。

昨日の終電に滑り込むようにしてたどり着いた我が家は安いアパートで、上の階に住む元気な子供は雨が降るのも構わず朝から早々に出かけ先程に帰宅した。その間ずっと、飯も食わず天井のシミを数えていた俺はただただ時間を無駄に浪費していた。

明日の仕事は早朝から会議だ。始発に乗らなければ資料の打ち出しが間に合わない。あの禿げた上司も偉そうなお局も暇があれば乗り換えた同僚とイチャイチャしてる元カノも死んでしまえばいいのに。

馬鹿馬鹿しい。ベッドの上でうだうだと管をまいているだけの時間がこの上なくくだらなくて無駄で自身の狭量を自覚するだけだと分かっているのにどうにもエンジンが掛からない。

エンストを起こした車のような頼りなさを嘲笑うかのように日もくれ薄暗い部屋の一日が終わろうとしている。

上の階ではきっと、ずぶ濡れで帰ってきた子どもを母親が風呂場に押し込んで、もうすぐ暖かい夕飯が作られるのだろう。

(………生きるのって、面倒臭ェな…)