あいつはもうダメだと皆が口を揃えて言うのだ。

失った左足と共に、肝心な何かも失ってしまったのだという。まだ若いというのに鋭さを失った眼光はめっきり老け込んでと誰もが顔を顰め同情なりをするが、しかしそれは老猾という言葉がしっくりくるように見えるのはミホークの目が節穴だからだろうか。

「あァ、おれはもうダメだよ」

昔のような強い言葉端も形を潜め、それこそ好々爺のような柔らかい口調が嫌に不気味で、わざとらしい弧を描いた目元をミホークは真っ直ぐに見上げた。

尻から根でも生えたのかという程座っている雨ざらしのチェアがぎしりと悲鳴をあげたが、ナマエは構わず背もたれへぞんざいに身を預けた様がかつての面影だろうか。

「すっかり気力が失せっちまったもんで、剣を競う気にもならねぇんだ。そいつらが言う通り剣士としては終いさ」

にこにこと言うよりはニヤニヤと、どう見ても他の奴らが言うように呆けては見えない笑みでナマエはいうが、どこがだとミホークは顔を顰めた。

ミホークは知らないが、名のある名刀なのだと誰かが嘆いていた剣は杖代わりのされるせいで朱塗りの鞘先が傷だらけで、久しくその剣先を拝んでいない。

しかしそれはつまり、挑む度に剣すら抜かせずに終わっているのだと地面に転がったままミホークは辟易とした。

椅子に座ったまま、切先を鞘に収めたまま好々爺は容易くミホークをいなしてしまう。もうダメだと言われる男に勝てないほどミホークが弱いのか、もうダメだという奴らがそれ以上に強いのか、ミホークには甚だ疑問だった。

「さてやれやれ、そんな話はいい。いつまでも寝てないで飯でも作ってくれ。おれは足が痛むんだ」

「…………」

「あと小刀はどこに行った?作りかけの木彫りを作っちまおう」

疲労に動かぬ体を叱咤し起きた先で、小刀と、何か彫り掛けの木材を投げて渡せば軽い礼が帰ってくる。

間を置かずして刃が木を削る音を聞きながら、鉛のように重たい体を引きずり小さな家の小さなキッチンに向かえば背後から声が掛かり振り向いた。

にんまりと、彫り掛けの木を日にかざし様々な角度から見る様は確かに暇を持て余した年寄りに見える。

「ミホークよ、今度そいつらに会ったら言っといてくれ。おれァ存外、手の掛かる道楽が好きなんだ」

疲弊した頭では上手く意味を咀嚼できなかったミホークに代わり、ギイ、と同意か文句か、椅子が軋んだ。