親指で弾き抜いたコルクは海に落ちた。

それを追いかけるように、あいつが好きだった酒が波の狭間を目掛けて緩い放物線を描いた。

甲板から手を伸ばし逆さに掲げた瓶は、みるみるうちに軽くなっていく。この程度の安酒など、ひと瓶流したところで惜しくも無かった。

「せいぜい、安い酒でも飲んでなさいや」

陳腐な憎まれ口ひとつ、ぽつりと零した切り言葉が続かない。

毎年毎年飽きもせず、この日だけはとこの安い酒を海に流す。おれはもう、お前が飲んだこともない様な高い酒も飽きるほど飲んだぞ。そう言って酔っ払いが海に投げ捨てた瓶は今頃、海のそこにでも沈んでいるのだろう。

きらきらと光を弾く穏やかな海面がいっそのこと憎らしくて、いつの間にかキレの悪い雫を垂らしていた瓶にちらりと視線をやった。

ぽたり、ぽたり、ぽた。

その雫も落ちなくなった頃にふっと力が抜け、同時に瓶は重力に抗うことなく、しかしいやにゆっくりと海面を叩いた。

「これっぽっちじゃどうせ足りねえんだろうけど、ま、また来年ってことで」

ぱしゃんと、返事でも寄越すように跳ねた魚はきっと安い酒が迷惑だったのだろう。

それがまるで悪友との付き合いに口煩い嫁みたいだと、自身の想像に唇を歪めるように笑みを浮かべた。

「おれも今日は、安い酒でも飲むとしようかね」

お前にはやんないよ、なんて。