自由に、わがままで生きられるのは力があるからだ。権力でも武力でもなんでもいい。力があって初めて、我を通すことが出来る。

と、自身の生きてきた経験に基づきドフラミンゴはそう信じて疑わなかったーーー今でもそう信じているが、目の前の女はなんだというのか。

弱い女だ。それこそドフラミンゴならば指先一つ動かすだけでどうとでも処分できるような、どこにでもいるような女。

見た目は確かに美しい部類だろう。整っているし、色気を滲ませる雰囲気はドフラミンゴ好みだ。気が強く、それでいて一歩引く奥ゆかしさも持ち合わせている。

だがしかし、わがままだ。

これ以上にわがままな女を、ドフラミンゴは見たことがない。

弱く、武力も権力もなにも持たないはずの女がなぜこうもわがままに生きていられるのか、ドフラミンゴには甚だ疑問だった。

「ねぇドフィ、喉がかわいたわ」

強請られるがまま買ってやった口紅が色付く唇が、更にドフラミンゴに強請って猫なで声を発した。

「酒があるだろ」

「甘いのが飲みたいの。あなたのお酒はどれも辛いんだもの」

「フッフッフ…おれにもってこいってか?」

にこりと悪戯に微笑んだナマエが、ごろりと転がっていたソファーで身をくねらせた。

「だって王さまが出歩くなって言うんだもの。愛しい王さまには逆らえないわ」

「フッフッ…フフフ!嘘のうまい女だまったく!」

「あら、なにか面白いこと言ったかしら」

つま先が誘うように天井を指した。日焼けを知らない白い足が惜しげも無く晒されて、すぐにまたソファーに沈む。

「ねぇドフィ、眠たいわ」

「じゃあ寝たらどうだ」

「化粧を落としてないの」

「女は面倒だな」

「面倒なのよ、とっても」

気だるげに身をよじったナマエが、ソファーに埋まるように丸まる。控えめな欠伸が聞こえた。

「そういえば、あなたが前にくれたワインなんだけど」

「ああ」

「美味しかったの。また飲みたいのに、だれに頼んでもくれないのよ」

「フッフッフッ、そりゃそうさ」

たしかあれは、それこそ天竜人に献上されるような上物だったはずだ。ドフラミンゴには甘すぎたが、確かに女が好みそうな味だと思う。

同意しか寄越さなかったドフラミンゴが気に食わなかったのか、ソファーの影から不満げな目でドフラミンゴを見た。

この女はこうするだけで大体の欲しい物を手に入れて来たのだろう。なんとも羨ましく、贅沢な話ではないか。

「あなたは面倒な人ね」

ドフラミンゴが、ちらりとナマエを見た。

「私をこんなところに閉じ込めても、私はあなたを愛さないのに」

じくりと、心臓が傷んだ。

微笑むように細められた瞳は、まるで氷のように冷ややかだ。

赤い口紅がまるで別の生き物のように蠢く。

「ねぇ、知ってるかしら。おとぎ話では素敵な王子さまが囚われのお姫さまを助けにきてくれるの」

まるで子供に諭すように、その声音だけはひどく優しく甘いくせに女の言葉はじりじりとドフラミンゴの鼓膜を焼く。

この女はいつもそうだ。

いくら欲しがるものを与えても、いくら甘い言葉を囁こうとも、この女はドフラミンゴに見向きもしない。受け取るばかりで何一つドフラミンゴに返しやしない。

「ああでも」

どうやったって、この女はドフラミンゴを愛さない。

「あなたのその不安げな顔は、ちょっとだけ好きよ」

ドフラミンゴは、こんなわがままな女を見たことがない。