「だってお兄さん、可愛いくて」

「……は?」






優しかった母親は薬に狂い、息子を半ば監禁状態にしていた。時折抜け出してはいたのだけれど、子供ながらに母の愛が恋しく、他の行く宛もわからぬままその監禁を受け入れていた。愛されていると思いたかった。

「オフクロの借金を必死に返してたのだって、俺はあの人の息子で、愛されたって錯覚したかったからだよ。借金返すなんて出来た息子っぽいじゃん」

「くだらねぇな」

「そ、くだらないって分かったんだよ」





「ねーねーお兄さん、お名前は?」

答えかけて、クロコダイルは口を噤んだ。

知られて困ることはないというのに、知られたいとは思えなかった。

「好きに呼んでろ」

「じゃ、クロさんね、黒いから」

にゃあと鳴いた猫もクロという名ではなかったかとは、言わないでおいた。