俺の楽園は肩の凝る世界へと早変わりしてしまった。
もとより人の入れ替わりが多いのが仇となってしまったか。隠居した身ではどうしようもないなと、首元に突きつけられたノミに両手をあげてため息を一つ。
例の腹話術が上手い新人は、どうも俺のことが嫌いらしい。
「何故ここにいる」
「何故って、悠々自適のセカンドライフ」
「誤魔化すな」
「最近の若いのはなんでこう疑い深いのかね…」
ぎらりと、肉食獣さながらに煌めいた眼光。
そりゃあ?俺の存在は表向き抹消されてるはずだが?引退した老兵から情報漏洩なんて洒落にならんだけに、俺の存在はそもそも最重要機密だ。死んでることになっているだろう。
ん?いや違うな、それは俺の先輩の話だ。その先輩のように後々暗殺されに来ても面倒なのでマジで死んだことにしたの俺だったか。最近はボケが来てる。
そもそも老後は世界政府非加盟国にいこうと思ってた俺が何故ここにいるのかーーー話せば長い回想に突入しようとした矢先、ノミが俺の首筋を掠めて壁に突き刺さった。ちげーから。それそういう使い方じゃねーから。
「子猫ちゃんよォ、カルシウム足りてる?ママのおっぱいちゃんと貰えてるか?」
「黙れ、いつまでも子猫扱いするな」
「そう言われてもなァ、相変わらず可愛いぜ子猫ちゃん」