王子様みたいだ、とはよく聞く。

それは柔らかな物腰だったり、年齢を感じさせない人当たりのいい顔つきだったり、プラチナブロンドの柔らかな髪も一役買っているだろう。

ともかく、人はよくこいつを王子様みたいだと評する。クロコダイルと同年代の、クソみたいな海賊相手にいい気なものだ。







斯く言うクロコダイルはナマエと人生の大半を共に過ごして来たが、ナマエがどんな風に女を抱くのか知らない。知りたいと思ったことも無い。好みの女は黒髪で知的な、丁度ニコ・ロビン辺りが好みだろうとは思う。

しかし、ちゅ、と音を立てて首筋に触れた唇に背が震えた。

背後から覆いかぶさる体温。鼻につく蒸留酒の匂い。ベッドとクロコダイルとの間に差し込まれた手は、なぞる様にクロコダイルの腹をまさぐる。

何故押し倒されているのか理解出来なかったのは一瞬で、次の瞬間には怒りと羞恥とでかっと頭に血が登った。酔っている。女と間違えているのかは定かでは無いが、しかし、正常でないことは分かった。

「ナマエ!」

身をよじり、制止の言葉をかけようとその顔を仰ぎ見てクロコダイルは思わず息を詰めた。どこが王子なのだと鼻で笑いたくなるような、海賊らしくぎらついた目がクロコダイルを見下ろし、餌を前にしたバナナワニのように舌なめずりをした口元は蠱惑的に弧を描いている。

雄臭い顔だった。

それこそ王子様なんて言葉すら出てこないような顔に、クロコダイルもまた酒の回った頭が疼く。

こいつは、どんな風に女を抱くのだろうか。

それは単純な好奇心でいて、下卑た情欲だった。クロコダイルの制止など気にも止めずに耳元に舌を這わせたナマエに、ぶるりと身を震わせる快感が競り上がってくる。

上半身を捻ったことでまさぐり易くなったクロコダイルの脇腹をするりとナマエの指先が撫で、ジレの釦をぷちりぷちりと外していく。その合間にもナマエの舌はクロコダイルの耳の中まで侵入し、くちゅりと脳髄まで響くような卑猥な音を立ててクロコダイルを苛んだ。

は、と熱を孕んだ吐息がこぼれ落ちる。

ジレを寛げ、シャツの胸元をはだけさせたナマエの手はまるでつまみ食いをする様にクロコダイルの胸を撫で、そこでふと不思議そうに動きを止めた。

「あれ……?」

見上げた顔は、予想と違っただとか、思い違いに気付いただとか、そんな時にする顔だ。馬鹿なこいつはよく勝手に思い違いをする。思い込みが激しいとも言う。そいつが今ようやく男を、クロコダイルを抱こうとしていたことに思い至ったらしい。

小首を傾げながら無遠慮に股座に伸ばされた手は、酒も手伝って早々に首をもたげ始めた一物を鷲掴んだものだからクロコダイルは批難の声を上げた。

「てめぇ…っ!」

「ああ、うん、ごめん」

しかし意にも介していない顔でおざなりな謝罪一つだけ寄越し、ナマエは再びクロコダイルの首筋に顔を埋めてすんと鼻を鳴らす。

いい匂いがする、なんて睦言をひとつ落として、その舌はクロコダイルの首筋を舐めた男に今度はクロコダイルが僅かに戸惑う番だった。勘違いに気が付いたくせにクロコダイルと分かっていないのか、クロコダイルの内腿をまさぐるナマエの手は止まる気配がまるでない。

こいつは男もイケただろうか。記憶にはないが、イケないと聞いた記憶も無い。半端に煽られた熱がぐずぐずと腹の奥で燻って、その手を払い除けるのを躊躇させた。

次第に上擦っていく呼吸に気を良くしたように、ナマエの手はクロコダイルの性感帯を探り当てようと先程とは打って変わって繊細な動きで体を這いずり廻る。相当な場数を踏んでいるだけあって、上手いものだとクロコダイルはどこか人事のように頭の片隅で思った。

焦らすように乱されていく衣服だとか、その合間に触れられる肌の熱さだとか、まるで恋人を相手にするかのように甘ったるく優しい手つきのくせに抵抗する間を与えない。

耳元を食むように寄せられていた口元が唇に寄せられた時、受け入れてしまったのは少なからず煽られてしまったからだろう。

舌を絡ませあい、酒臭い唾液が顎に伝う合間に、クロコダイルの手がナマエの服を剥ぐように乱していく。キスの合間に合わさった視線は、楽しそうにしなりながらクロコダイルを覗きこんでいた。

緩く立ち上がったそれを太腿に感じ、知らずクロコダイルも口角が上がる。

左腕を飾る鉤爪を捨てるように落とし、離れたナマエの頭を捕まえ再び口付けると躊躇なく潜り込んできた舌に艶を帯びた吐息が堪えきれず零れた。

「クロコダイル」

合間に囁かれた声音の、なんと甘ったるいこと。













さて、どうしたものか。

ベッドに沈むナマエの後頭部を見下ろし、クロコダイルは酒の抜けた頭で至極冷静に思案しながら葉巻の紫煙を吐き出した。

首筋に残る歯形が痛い。