このくそやろう。そう罵られても自覚済みなのでノーダメージだ。
くそやろう、くず、そのまましんじまえ。
堪らえきれなかったうめき声の様に俺を罵るチビにはいはいと手を振って、死ぬからどっか行けよと言えばチビは親の敵でも見るような目で俺を見た。
現状をざっくり言うならば、チビが喧嘩売って返り討ちにされた海賊に絡み返したら楽勝だったが海軍に追われた。久しぶりにゼファーの野郎を見たような気がするが、出来れば二度と会いたくないところだ。
そのまま街ぐるみの大捕物兼大乱闘になり、すっかり隠居生活に慣れていた俺はうっかりと大怪我を負いながら元海軍のオーナーに匿ってもらっているところである。
相変わらずのマヌケさだと鼻で笑いながら手当をしてくれたオーナーに礼を言っていいのか喧嘩を売っていいのか分からぬままクロコダイルと押し込められた二階の部屋で先ほどの罵倒は吐かれた。
大体お前を助けたのが発端なのだから礼の一つでも言いやがれと思うところなのだが、いつもの憎たらしい顔がゆがんでいるところを見ると思うところはあるのだろう。
ぎゅうぎゅうと服の裾を握りしめながら、誰かを呪い殺そうとするような顔で自身のつま先を見つめる子供。幼いながらに何を考えているのか分かりにくい子供なので誰を呪い殺そうとしているのかは知らないが、実際に呪い殺すことは出来ないであろう事は分かるのでちょいちょいと指で呼べば珍しく素直にその身体が寄せられる。
「これに懲りたら無理はしねぇことだな」
「…てめぇがこなかったらもっとうまくやれてた」
「人のせいにするんじゃねぇよチビ」
「うるせぇクソやろう」
あァ!?といつものように怒鳴り返す気力もなく、ぺしりとその頭を叩けば誰かを呪い殺そうとする顔のままその頭は大人しく俯く。
チンピラならともかく、名の知れた海賊にガキが挑んだのは無謀だったという自覚はあるのだろう。
騒動で乱れた髪を後ろに撫で付けながら、あんま心配かけんなと一応釘を挿せばその目が驚いたように俺を見る。
「強い相手にゃそれなりの立ち回り方があんだ、お前頭良いんだから分かんだろ」
「……ん」
悪かった、なんて蚊の鳴くような声で零れた謝罪に、どうして喧嘩売ったのか聞けば再び親の敵を見るような目で睨みつけられた。つくづく何を考えているのかわかりにくい子供である。