「ざこなんだからひっこんでろよナマエ」

「どうしよう本気でこのガキ可愛くない」

無残にブタとなったカードをぶちまけ椅子の背もたれに身を預ければげらげらと賭博仲間の笑い声が上がった。ふん、とガキらしさの欠片もなく鼻であしらってくれたチビは小憎たらしい事にAのファイブカード。誰だジョーカー入れたヤツ。お前がハートのA引かなきゃ俺はストレートフラッシュだ。

「そのかわいくないガキにかてないんだからたいがいざこだよな」

「おいオーナー今の聞いたか」

「クロコダイル、こいつはコレでも昔は中々だったんだぞ」

「いまざこなんだからざこだろ」

「ああもう本気で可愛くねぇ!」

大体にしてクロコダイルは可愛くないのが常だ。憎まれ口しか知らないのかと聞きたくなるそのふてぶてしいまでの態度とふくれっ面。

オーナーが運んできたお子様ランチと言う名のクロコダイル専用メニューにフォークを突き立てる様はまさにお子様なのだがなぁと、早速頬に着いたケチャップを指先で拭ってやれば俺用のコーヒーとドリアも運ばれ、ついでにいい加減ツケを払えとの小言も運ばれてきた。

「あー、来週な、来週」

「おれがはらってやろうか」

「来週な、来週」

むすっと、無一文のくせのと罵ってくれたチビは事実、残念なことに俺よりリッチだ。この賭場兼飯処に集まる賭博仲間は、子供相手だろうと勝てばきっちり掛金を払う。負けたらきっちり持ってかれるけど。因みにチビは負けた場合のみ俺の懐である。

突き出した唇がなんともまあ憎たらしくて、その頬を左手で挟む様に潰せば頬の肉に押しつぶされた唇がさらに突き出し憎たらしい顔に少しは愛嬌が出た。ひゃめろ、と言葉にならないクレームを上げたクロコダイルが珍しく間抜けで喉が鳴る。

「おい、ナマエ。食ったらもう一勝負いくか?」

「ポーカー以外で頼む」

今日はポーカーと相性が悪いと肩を竦めれば、いつもだろと手元で憎まれ口が叩かれた。んだとチビ、と歯をむき出して唸ればげらげらと下品に上がる笑い声。誰だ今同意した奴。

イラッとした気持ちそのままに、がつ、と加減無しのゲンコツを一発目くれてやればぎゃっと悲鳴が上がる。あとは意外と子供を可愛がるオーナーからの叱責とナイフが飛び俺とオーナーが言い争うという毎度お決まりの流れを経て夜が耽ていき、ガキが来てから朝帰りも出来なくなった俺はオーナーに半ば追い出されるように店を出た。

毎度のことながら胸糞悪い引き上げ方だが、月明かりに照らされて歩く夜道は涼しい夜風も相まって心地いい。以前の朝帰りにはない心地よさだ。

そんな中ふと空を見れば、きらきらと輝く星と一際真ん丸な月が顔を出していた。

「お、今日は満月だなァチビ」

俺につられ空を見上げたチビの顔も月明かりに照らされ、だからなんだと言いたげな視線が寄越された。こんなチビだが、こんなチビでもいると爛れた生活がマシになるらしい。月を見上げたのなんて、海賊時代の不寝番が最後だ。

「なににやにやしてんだよ」

「あァ?」

「にやけづら、きもちわるいぞ」

「あ゛ァ!?」

「ぎゃっ!!」

このチビマジ可愛くねぇな!!とちょっと感傷に浸った端からチビの頭を殴ればいつもの悲鳴。痛さに蹲りながら涙目で睨みあげてくるチビを鼻で笑ってさっさと帰路に戻った。

背後で慌てたように走って追いかけてくる足音を聞きながら、ちょっとだけ、悪くないなぁなんて思ってしまった。

憎まれ口叩くし可愛くないくせに追い出し突き放せば必死こいてしがみつこうとする子供の相手をしていると、自分から噛み付いておいて様子を伺ってくる野良犬でも見ている気分になる。

「まてよ、ナマエっ!」

「あーはいはい」

誰にも言ってないが、たまには可愛いところもあるのだ。今みたいに必死こいて置いていかれまいとするとことか、本当、たまーに。