いつもの店に中々ナマエが現れずクロコダイルは首を傾げていた。
日もとうに暮れ、賭博の常連たちもいつもの様に顔を突き合わせてカードゲームに勤しんでいる。
朝もクロコダイルが起きるより前に出掛けていたし、なにかあったのだろうか。
そんなことを悶々と考えていると、ひょっこりと厨房から顔を出したオーナーが忘れていたと言う顔でさらりと言ってのけたのだ。
「お前しばらくうちに泊まれよ」
一ヶ月だ。今日寝て明日の朝起きれば、ナマエがクロコダイルを置いて行って丁度一ヶ月経つ。
ナマエの家のクロコダイルのベッドより柔らかなマットレスに身を埋めながら、クロコダイルはすっかり見慣れた壁のシミを睨みつける。クロコダイルを預かるオーナーすらナマエがいつ帰ってくるのか知らないようで、どうでも良さげにそのうち帰ってくるさとしか言いもしない。
確かにふらりと姿を眩ませるような男ではあるが、あんまりではないかとクロコダイルは心中詰った。
普通、仮にも保護者であるはずの大人が、幾ら自分の子でないと言っても一度は懐に迎え入れた子どもを放ってこんなにも長期間ほっつき歩いて良いわけがないのだ。
覚えてろよと壁のシミを睨みつける。
帰ってきたら、覚えてろ。
何度目になるのかも分からないような恨み節を唱えながら、クロコダイルはうつらうつらと意識を落とした。
朝になったら、きっとナマエは帰ってくる。
あの憎たらしい間抜け面で、何でもなかったようにクロコダイルを迎えに来るのだ。
「おうチビ、相変わらずチビのまんまか」
薄汚れた顔がニヤニヤと小馬鹿にしてクロコダイルを見下ろして、殴りつけてもひらりと躱されてクロコダイルは唸った。
「ははは、怒るなって!おら、土産だ。おチビちゃんにお似合いなぬいぐるみだぞ〜」
不細工で巨大なぬいぐるみをナマエがぐいぐい押し付けてくる。ふわふわで柔らかいけれど、あまりに加減なく押し付けてくるものだからクロコダイルの足元はよろめいた。
よろめいたというのに、ナマエは馬鹿にした声でさらに不細工なぬいぐるみをクロコダイルに押し付けてくる。
足がもつれ、体が傾き、あ、と思ったが何故だか体が動かない。転けるーーーーーー
ーーーーーどしん!
「…………」
ベッドから転げ落ちて見上げた天井は、今日も見慣れたシミがあった。
「おーうチビー、帰った…いっでぇ!!何しやがいっでぇ!!!」
「う゛る゛ぜぇ゛み゛る゛な゛!!!!」