前々から思っていたことではある。結構がつがつ殴られているというのに、石頭なのだろう。手持ち無沙汰でなんとなく手頃な頭を撫でてみたが、収まりがいいと言うかなんというか。
「お前、頭の形いいよな」
何度やめろと手を払われてもしつこく撫で回したせいか、足の間で大人しくぐったりとしているクロコダイルの髪を梳くように指を絡める。
気分的には懐かない猫でも引っ捕まえて撫で回している気分だ。ちろりと目つきの悪い視線が振り返り、への時に曲げた口がごにょごにょと動いた。
「もういいだろ、あつくるしい…」
「暇なんだよ」
「…………」
呻くようにげんなりした背中。だが本気で暴れないあたりそこまで嫌でもないのだろう。なんせ可愛げのない子供だ。わざとらしいむくれっ面を浮かべてはいるが、俺は知ってる。耳が赤いことを。
可愛げはないくせに、意外と照れ屋である。
「今日はジジイの店も休みだし、たまにゃのんびり家にいるか」
「…めし、どうすんだよ」
「缶詰めかなんかあっただろ、多分」
「…そうかよ」
ぷい、と再びそっぽを向いた顔。その仕草がまるで不機嫌な猫みたいで思わず笑ってしまった。にやにやとにやつきながら見下ろされるのが気に食わないのか、後頭部でヘッドバットを決めに来たチビをいなしてまたぐしゃぐしゃと頭を撫で回す。投げやりな呻き声がなおさら笑いを誘ってしかたない。
「お前、たまーに可愛いよなァ」
「そーかよ………はぁっ!?」
「ぎゃっ!」
デコと顎とが激突して二人して痛みに蹲った。間抜けな図だがこれが割と本気で痛くて涙目だ。
このチビ、と怒鳴りつけようとチビを見ると、赤くなった額を抑えながらそれより赤い頬してチビが俺を見上げて戦いていた。その目もちょっと涙目だ。
あまり見ない顔に勢いを削がれていると、チビはぎっと眼力強めに俺を睨みつけ、俺が何かを言うより先にどかどかと荒々しく踵を返して玄関を開けた。
「でかけてくる!!」
「おそくなるなよー」
「ならねぇよ!!」
ばたん!!と荒々しく閉められた扉に呆気にとられながらひらひらと手を振って、一度はしんと静まり返った室内。しかし思い出したように込み上げた笑いがこらえ切れずに、俺は吹き出すように笑い転げた。
なんだかんだ、うちのチビは可愛い。まあ、たまーにな。ほんと、たまーに。