毎日毎日苛立ちを隠すことなく俺にぶつけてくる姿にいつからか、ああ、虚しい男だなと思うことがあった。

稀に訪ねてくる部下や侍らせた女の前での余裕ぶった笑みは消え失せて、どこか切羽詰まったように悪態を吐き捨てる。

この部屋の外でのゴシュジンサマは、奴隷となる前に数回見かけたきりだがいつも口角を釣り上げ笑っていた。だが目の前のゴシュジンサマは、笑うと言うことが無い。

殴りつける拳を甘受しながら、サングラスの外された瞳を見上げた。俺ではない何かを見ているような瞳に思う。むなしい男だな。

加虐趣味はないのだろう。見上げた目は痛めつけて興奮しているようには見えないけれど、苛立ちにまみれてどうしようもなく足掻いている。

まるでガキの癇癪だ。

なまじ権力も財力もあるものだから質が悪いガキ。彫られたばかりのタトゥーが引っ掻かれ熱を持ってうずく。ガキの持ち物に名前を書くように、消えることのないそれが月日を追うことに増えていく。

タトゥーを彫られた。ピアスも開けられた。傷もつけられた。仮に奴隷から解放されたとしても消えること無い主張が次々と刻まれていく。

ふ、と短く息がとぎれた。

ぱたぱたと何度目かの白濁を俺の腹の上に吐いて、腕を絡め取っていた糸が消え失せる。気を失ったように覆いかぶさり倒れ込むゴシュジンサマを、いつものように広いベッドの中央に横たわらせた。

汚れたシーツも、明日になれば使用人が取り替える。鎖を外すすべのない俺も汚れたままベッドに突っ伏した。殴られた頬が今更熱を持って痛みだして短く息を吐き出す。

虚しい男に同情をおぼえてしまうほど、奴隷生活は長かった。