「でなァ、その海では船で寝てる子供をそりゃあもう無残に殺しちまうバケモンがいるんだ。攫って、深ァい海の底まで引きずり込んで、まずは足の指から切り落とすんだよ。足が終わったら次は手だ。一本一本切り落とす度叫ぶガキの声がそのバケモンはだぁい好きなのさ」

「そ、んなの…いない…!!」

「いるんだなあ、ローみたいなガキがだぁい好きなバケモン。俺はその海にいたから知ってるんだ。俺の体に入ってるタトゥーはなァ、俺が子供の時もしそいつに襲われたら死体が誰だかわかるように入れたのさ。今度連れてってやろうか、ロー」

「い、行かない!」

「ローは可愛いからなあ、気を付けないとすーぐ攫われちゃうだろうなあ」

「行かないっ!!」

がたがたと涙目でクッションを握りしめ後ずさるようにソファーに身をうずめたローにくつくつと笑いが止まらない。もういいかとヴェルゴが横でため息を吐く。なんだよ、楽しんでるのに邪魔するなと舌打ちをすれば硬化した腕が顔面を直撃して吹っ飛ぶ体。声にならない痛みにのた打ち回る俺に無表情なままのヴェルゴに俺が泣きそうだ。若も若なら部下も部下だと呻きながら抗議すれば硬化した足が腹をめがけて振り下ろされてクリティカルヒット。俺が潰れる音がした。

「若より容赦ねぇぇぇぇぇ…!!」

「ふん、自業自得だ」

「まだ何もしてなぐおぶっ!」

またもやけたぐられ大理石とごっつんこした顎に苦しみを全身で表しながらリンチだ虐めだとさめざめと泣きまねをしたら休まる攻撃の代わりに侮蔑の視線。切なくなって泣きまねはやめて心で泣いた。若もなんでこんな奴にローを世話させるんだローを構うのが命がけじゃないかとよろよろと起き上がる。

「だ、大丈夫?」

おろおろと普段は生意気な目が心配そうに向けられ、その顔に思わず顔が綻んだ。

「ローは可愛いなあもう本当俺の癒しだよおやつあげるから後で俺の部屋においでヴェルゴは連れてきたら駄目だよそうだ玩具もあげるローにはちょっと早いかもしれないけど大丈夫俺がいだだだだ若痛い!」

「フッフッフ!玩具がどうしたってぇ?」

みしみしと再び不吉な音を立てる頭蓋骨に叫んだ。いえいえそんな大人の玩具とか言ってませんよええ!と全力で否定しても弱まらない圧にアイアンクローの恐ろしさを痛感しながらみしみし言い続ける頭蓋骨に悲鳴を上げた。

「もうしません!もうしないからやめてええええ!!!」

「フッフッフ!似たようなセリフ聞いたばっかだ!」

「行くぞ、ロー」

「え、え?」

ちらちらと振り返りながら去っていくローにああああと声にならない叫びを上げればさらにみしみし頭が軋んで若が笑う。

「やああめえええてええええ!!」

「懲りねえなあ、お前」