「大人になってみても、ナマエの手はデケェな」

そう言って絡め取られた指に、なんだ、と目を向ければ薄く笑うドフラミンゴ。

「よく言うだろ、ガキの頃デカく見えてたもんが、大人になると小さく見える」

「そうだなァ」

「ナマエの手も、小さく見えるのかと思ったんだけどよォ」

あんたの手は、デケェままだ。

そう言って人の手を玩具の様に弄ぶクソガキは、しばらく見ない間に随分とデカくなった。相変わらずのサングラスに、相変わらずの笑み。それでもいつも薄汚れていた腕は随分と逞しくなり、小奇麗で派手な服に身を包む。

必ず、迎えに来るから。迎えなんざ、要らねェよ。

そんな会話を交わしてから果たして何年経ったか。便りはなくとも悪評という名の無事な知らせを小耳に挟みながら、商船を乗り継ぎ行く当ても無く旅をしていた。ふらふら、ふらふら、気ままな旅。乗っていた船を襲われ再会するとは、予想もしていなかったけれど。

攫われる様に連れてこられた宮殿で腰掛けたソファーが、柔らかく二人分の体重を受け止める。

「探してたんだからな、ずっと」

手を取り、肩に頭をもたれ掛らせドフラミンゴが言う。なのに、どこにもいねェ。拗ねた口調は昔と変わらないが、声は幾らか低くなった。

「お前の噂はよく聞いたけどな」

「フッフッフ、一応、気には掛けてくれてたのか?」

「なんだ、お前の事を忘れてたとでも言いたげな口ぶりだな」

「ナマエは淡泊だからなァ。不思議はねぇ」

「…そこまでねェよ、流石に」

「フフフフ、フフッ、どうだかなァ」

まるですり寄る猫の様に肩口に額を押し付けて、小さく肩を揺らしたクソガキが、忘れてないならいいのだと弄んでいた手を離した。離された手を出された酒に伸ばせば、不意に軽くなる肩。

ちらりとそちらを窺えば、サングラスの奥の瞳が細められ、俺を見上げていた。

「なんだ、クソガキ」

「…フフ、いや、フフフフッ」

一人上機嫌に笑うクソガキに肩をすくめ、伸ばしかけていた手でグラスを取った。舐めるように口付ければ辛めの爽やかな香り。また随分といい酒が振る舞われたものだと安酒に慣れた舌が舌鼓を打った。

「美味いか?」

「ああ、うめぇ」

「いい宮殿だろ」

「ああ、いいな」

「スゲェ?」

「ああ、スゲェよ」

にい、と満面の笑みでフフフ!と昔と変わらぬ笑い声をあげたクソガキは、そうか、とだけ呟き鼻歌でも歌い出しそうなほど上機嫌に身を揺らした。

もう一口その上等な酒を舐め、面影残る横顔に手を伸ばす。

「やるじゃねぇか、ドフィ」

ぐしゃりと、昔と同じ様にその柔らかい髪を乱しながら思い切り撫で回せば、昔の様によろめきはしないが、うお、と小さく悲鳴が上がった。追うように上がる笑い声を聞きながら、ソファーに腰掛けていても分かるほど高くなった頭の位置を感じ、少しだけ感慨深い。

それでも相変わらず頭を撫で回され喜ぶクソガキにつられて笑い、俺の手がでかいワケを教えてやろうかと言えばサングラスの奥の瞳がパチリと瞬きをひとつ。

「まだお前がクソガキだからだよ、クソガキ」

「…なら、そのクソガキをもっと甘やかしてくれよ」

昔みたいに。

そういってじゃれついてきた巨体は、クソガキというには少々育ち過ぎていたけれど。