満面の笑みで突き出された手に、しわくちゃな札が数枚握られていた。

「フッフッフ、これで、いていいんだろ?」

額から流れる血も固まって、鼻血も固まって、ぼろぼろの顔面で笑うガキに言葉がでない。

服だってぼろぼろだ。札を突き出す腕も、足も、お気に入りのグラサンも。

絶句して動かない俺に、これじゃあ足りないのか?と的外れなこと言いながら不安げに笑みを崩すドフラミンゴに、はっと我に返った。言わんとしていることをようやく理解し、改めて握りしめているしわくちゃな札を見る。

「……ばかだなあ」

よっこいせと視線をあわせるようにしゃがみ込んで、困ったように笑うドフラミンゴの泥に汚れた金髪に手を乗せた。ぱり、と乾いた泥が剥がれ落ちる。

里親の話があるんだがどうだ、まともに飯も食えない状況よりはいいだろう?

味毛のないパンを分け合って飢えを凌ぐ俺達に降って沸いた話。

山賊上がりの男が下品な笑みを携えて、どうだ、良い話だろうと持ち掛けてきた。へえ、と曖昧な返事を返したのが悪かったのか。

そんな話、どうせ変態の慰み者にされるのが落ちだ。

現実の苦味を重々承知している俺からしたら、甘いだけの話に興味はなかった。謝礼だって出る、お前だって食い扶持が減ればマシな生活が出来るだろう、子供がいなけりゃお前ならどうとでもなるはずだ。言い募る男に謝礼の意味を知っているのかと聞きたくなったが、そうだなとだけ返した。

そりゃあ、ガキがいなけりゃ海にでるのだって簡単だし、報復と銘打ってドフラミンゴが狙われることを恐れて下手な略奪が出来ないのは辛い。

だが、拾ってしまったのだからしょうがないではないか。

混じりっけの多い水でパサついたパンを流し込んで、肉が食いてえなと思った。山が近くにあれば、もう少しまともな飯も食えるというのに。

「なあ、ドフラミンゴ。お前だって良い生活がしたいだろ?」

甘い言葉でドフラミンゴを口説く男を、そんな事を考えながら思考の外へと追いやった。

興味もなく聞き流した話だったが、そうか、気にしていたのかと苦笑がこぼれる。

「やるじゃねえか、ドフィ」

ぐりぐりと目一杯その頭を掻き回せばよろめく小さな身体。されるがままフフフフ!と誇らしげに笑う顔に、しょうがねえガキだとくわえた煙草を噛み潰すように笑った。

「いっぱいとってくるから、すてないで」

頭に乗せた手を握りしめながら、そう言う縋る子供の手を払いのける方が無理と言うものなのに。

「んなことしなくても、捨てやしねえよ」

泣きそうな顔で笑う子供に、やはりバカなガキだと悪態を吐き捨てた。