自身の腕が、自身の意思に反して動くことはあるのだろうか。
投げ出していた腕が無理やり動かされる不快感に、沈んでいた意識が浮上する。敵か。寝起きの頭で仮定をはじき出すと同時、手に触れた感覚に仮定は覆された。
柔らかな毛が、指先に絡まる。
俺の腕は俺の意思を伴う訳でもなくわしゃわしゃと乱暴に毛をかき混ぜたかと思うと、少しだけ優しく毛並みを整えた。
仕事の疲労感に再び沈もうとする意識を叱咤し、緩く首を捻ればそこに居たのは見慣れたクソガキ。何してんだ、そう声を掛けようとして、クソガキの怯えたような目と視線がかち合った。
「………あ」
まるで盗み食いがばれた犬の目だ。やばい、どうしよう、ばれちゃった。まさにそんな感じ。
俺のモノのくせに好き勝手動いていた腕が、大人しくそのガキの頭に乗ったまま固まる。
「………」
固まったまま、俺の意志では動こうとしない片腕に数度目を瞬かせ、もう片方の腕を動かして見ればあっさりと動いたそれ。ああ、能力か。合点が行った頭で、おい、と子供を呼べば弾かれたように腕は見えぬ何かから解放された。
「……、ハァ」
ため息に合わせてあからさまに震えた子供の肩。そこまで何に怯えてるんだと、自由になった腕で再度その頭を緩くかき混ぜれば子供が驚いたように俺を見つめる。
「寝れねェのか?」
だるい体を捩れば、子供が控えめにうなずいた。何だ、腹でもイテェのか。そう問えば横に振られる首。下がった視線に合わせた下がった頭。
「…今夜は寒ィなァ」
薄っぺらい毛布を目繰り上げ、躊躇する子供を引きずり込むようにその腕を引いた。
怖い夢でも見たのかと、小さく震える手を体ごと抱きしめる。
「ナマエ」
「んー」
「ナマエ」
「おー」
「ナマエ」
「なんだ、クソガキ」
今日は随分甘えたじゃねぇか。ぐりぐりと撫で回した後頭部が