氷のように冷え切った体を引き上げると水こそ辛うじて吐き出しはしたものの、意識のない頬を数度叩いても返事は返ってこなかった。

「ったく…後で怒んじゃねぇぞ…!」

冷たい海水を吸った衣服をナイフで裂き、顕になった肌を脱ぎ捨てていた外套で覆う。血の気の失せた肌はそれこそ人形かなにかのようで、抱き上げた身体は力ない死体のようだった。

か細い息が止まらぬうちにと、担ぎ込まれた船室で暖と布とが集められていく。

「オヤジ、ダメだ。流石に水が足りねぇ」

湯を沸かそうにも白ひげに劣らぬ巨体を温めるほどの水は残っていなかった。木船で轟々と火を焚けるはずもなく、毛布にくるめられた女の唇は変わらず血の気を失っていた。

「………」