仮面を外した頬を、夜風が慰めるように撫でていく。

エースの話に垣間見た子供の生い立ちに、どうしようもなく寂しくなった。

ルージュのことも、お腹の子のことも知っていた。それをガープに頼んだことも知っていた。

ロジャーの考えはいつも斜め先を行くものだからウェヌスには到底わからないけれど、ウェヌスといてもレイリーといても他の奴らでも、きっと未来は海賊でいることしか出来なくなるからこれで良かったのだと言い聞かせた。

己がもっと頼りになるなら、ロジャーはガープではなく自身に任せたのではないか。そんな一抹の自責の念は、きっと傲慢だと言い聞かせた。子供が幸せなら、それが一番いい。生きていればそれでいい。そう言い聞かせたのに。

欄干にもたれ掛かり、海を眺める。

背後の賑やかな喧騒は一抹の寂しさを紛らわしてはくれるけれど、拭ってはくれない。潮風が慰めるように頬を撫でては吹き抜けていく。雨は、まだ降らないでいてくれるらしい。

喧騒の中心で、ニューゲートの笑い声が響く。ニューゲート声はよく響いて心地いい。

だけどロジャーの声もよく響いた。

若い子らのやかましさだって負けていなかったし、その子らを叱るレイリーの怒声もよく響いた。楽しかったのだ。あの頃は、何もかもが。

今だって楽しくないわけではないのに、時折思い出しては無性に恋しくなる。

胸元のロケットを手に、開く。

二枚の写真はすっかり色あせてしまったけれど、それでも変わらず笑顔を残していた。

一枚は、ゴール・D・ロジャーとシルバーズ・レイリー。もう一枚は、子どもたちに囲まれ笑うニューゲートの写真。

「……ふふっ」

たぶん、死んだ後に文句を言われるのだ。おれの息子を取るんじゃねぇよ、なんて子供じみたわがままであいつはきっと怒りに来る。じゃあなんて返そうか。ほっぽって行ったあんたが悪いよ。そう言ったらきっともっと怒るから、そこでとどめを刺してやろう。なんといえば、あいつの悔しそうな顔が見られるだろうか。

ロジャーが最後に寄こした仮面を眺め、頬に押し当てた。

「あっ、姐さん!」

背中にかかったエースの声にゆっくりと振り返ると、酒に酔ったのか楽しみすぎたのか、頬をうっすら赤く染めたエースが少しばかり身を固くしながらウェヌスを見上げていた。

「オ、オヤ…、オヤジが、呼んでる」

照れくさそうにそう言ったエースについと視線を持ち上げると、宴の中心でニューゲートが手招きしている。

それが無性にくすぐったくて、こらえきれずにこぼれる笑み。

「なぁ、姐さん」

ついと踏み出した足元で上がった声に再び視線を落とすと、どこか身構えたエースの視線がついと逃げていく。

「って、呼んでいいのか。おれも」

一瞬なにを問いかけているのかわからずに目を瞬かせるが、理解できると同時に思わず吹きだすように笑ってしまった。ぎょっと身を引いたエースには悪いが、そうだ、ロジャーへのとどめの一言はこれにしようではないか。

「なにいってんだい」

わしゃわしゃとその小さな頭を撫でまわして、乱れた髪を整えなおすようにかき上げればそこには照れて戸惑うそばかす顔。どうせ仮面越しで見えやしないけれど、ウェヌスは満面の笑みを浮かべて言った。

「あんたはもう、あたしたちの子なんだよ」