昔の話だ。 ロジャーの処刑を流すモニターの前で、気にかけたのは一人の男だった。あの男はしっかりしているようで、支えるものがなくなると脆いから。 あたし達はロジャーを支えているようで、実はロジャーが引っ張っていたのかもしれない。ロジャーが暴れ馬であたしとレイリーが手網。船のみんながはぐれない様に、ロジャーから。 ぽろりと、泣いた。 歪な頬を涙が伝う。泣かないと決めていたのに、どうにも無理な話だった。 ぷちりと切れた手網はふらふらと漂う事しか出来ないのだと、改めて気づきまた涙があふれる。 人目を避けるように渡った小さな島で、歯を食いしばり唸るように泣いた。 体躯に合わせた小屋は、別れ際みんなが建ててくれた。こんな所に残していくのを最後まで気にかけてくれていた。 ぽっかり空いた穴を埋めるには、ここは余りに寂しすぎて。 どんっ! 無遠慮な、ノックとも殴り付けているともつかないような振動に肩が震える。こんな気配に気が付かないなんて。 どんっ!どんっ! さらに二回、無遠慮なノックが響き、終いには鎹の悲鳴。 涙を拭い、仮面を顔に押し付けた時には無遠慮な客はすぐ背後に居た。 「なんの用だい」 「…探したぞ」 「探される覚えなんてないよ」 「いいから来い」 無遠慮に肩に伸ばされた手を手で払い落とす。払い落とした音は、随分冷たく響いた。 めくれ上がった仮面の下、火傷が覆う顔を見下ろしたニューゲートが目を見開き固まった。その目の中に、今にも泣き出しそうな、醜い女が睨みつけている。 「…帰っとくれよ…頼むから…」 くしゃりと、顔が歪んでいく。 「なんで…あんたがそんな顔するんだい…」 ひくりと、胸が詰まった。 ぽろぽろと堪えきれなかった涙がこめかみに伝っていく。ニューゲートの腕が頭を抱え込むように、ウェヌスの額を胸元に寄せた。 その背に両手を回すまで、時間は掛からなかった。 「うぅ…っ、ぅぅぅぅ…!」 自分がこんなに弱かったなんて、初めて知った。 |