腫れた頬に、海水にベタつく体に、落ち着かない心境。

飽き飽きするほど否応なしに突き付けられる実力差と、しかし受け入れられない意地。

見かねたように声を掛けてきた男は、息子と呼ばれる事が嬉しいのだとエースに笑って言った。

「オヤジがいて、姐さんがいて、家族がいて家がある。それだけで、おれァ幸せもんだよい」

「……家族」

「そうさ。オヤジにかかるとな、すげぇんだ。敵だった奴らも親父の下じゃみんな家族になっちまう。……おっと、だが一つ忠告だ」

そう言って、にんまりと男は笑身を浮かべてエースを覗き込む。

まるでイタズラを自慢する子供のような顔だとエースは思った。

「オヤジは案外嫉妬深い」

ついでにナースが飛び切り怖ぇ、と楽しげに声を弾ませて言った男に通りかかったナースの眼光が煌めく。それを誤魔化すように肩を竦め、男はエースに笑いかけると去って行った。

一人残されたエースは、しばらくその背を視線で追いかけ、ついと青々と広がる空を見上げる。

そうしてしばらく、エースはゆっくりと立ち上がり、何度も襲撃に向かったあの部屋へと足を向けた。