「私がロジャーの船に乗っていたことに文句があるならいくらでもお言いよ。私にとって誉れだ」 仮面に隠された表情は、しかしその目でニューゲートに過去を見せた。 ニューゲートを射抜いた力強い目だ。静かに燃えるような熱のある、ニューゲートを惚れさせた目だ。怒りなんて安い感情はない。誉れと言った言葉に嘘はないと思わせるだけの真っ直ぐな眼差しと、海賊として生きてきた女のプライドがそこにはあった。 しかし同時にニューゲートの胸中燻った感情に、ニューゲートが小さく唸る。あの野郎。思った事は、ただの八つ当たりだといわれても頷くしかできないだろう。 「オメェは……」 開きかけた口を、一度強引に閉じる。俺は今、何を言おうとした?みっともない台詞を聞かせるつもりかと、板についた見栄が首元を締めあげるようだ。 「なんだい」 ウェヌスの視線と、息子の視線。 射るようなそれらを受け止めながら、ニューゲートは見栄と意地とで口角を上げる。 「オメェは、おれの女だ。だろう?」 まるで自身に言い聞かせているようだと思いながら、ニューゲートの言葉に黙った息子達と、ウェヌスの目に、ニューゲートはいつも通り笑みを浮かべる以外の術が分からなかった。 ウェヌスの一等は、ロジャーだ。 重々承知で口説いていたはずなのに、死んだ相手に女々しい話だが、ニューゲートは時折ロジャーが憎らしくなる。 守ってやれなかったくせにと無責任に詰りたくなる。 ウェヌスは、ロジャーを惚れ抜いているのだろう。ロジャーだけじゃない。冥王も、あの見習いすら。海賊王の一団はウェヌスにとって遥かに特別だ。 悔しいが、ニューゲートにはまだウェヌスをあの目にさせることが出来ない。 それが悔しくて、妬ましくて、柄にもなく死んだ野郎を胸中で詰る。 おれの女を悲しませてんじゃねぇよ、バカ野郎。 凛と背を伸ばして立つ女を引き寄せ、ニューゲートは仮面越しに唇を落とした。 それがなんだかロジャーに阻まれているようで、死んでも鬱陶しい野郎だとニューゲートは引き寄せる腕に力を込めた。 |