入れ代わり立ち代わり、部屋に人が来るのが何故だかわからなかった。どうやら随分大きな船らしい。先に状況を説明してほしかったが、誰もかれもが自身に覚えられてないのだと確認するとひどく驚いたように部屋を後にする。医者に記憶喪失だとだけ言われたが、自身で驚く程それに対する戸惑いはなかった。まるで他人事の様な、そんな錯覚すら覚える。
「ロス」
自身の名だと教えられた名称を呼ばれ、起きてから何度目か分からぬノックに扉を見た。異様にデカい体躯に白いひげの初老。やはり名は分からない。
「………どうやら本当らしいな」
そんな自身を見つめ、酷く悲しそうに顔を歪めた男はやや窮屈そうにベッドサイドに腰掛ける。その顔に少しだけ申し訳ないような気がし、謝罪を零せば驚いたように見開かれる双眸。
「グララ…こりゃァちぃっとばかし…いや」
今一番不安なのはお前だったなと、その大きな手が自身の頭を無造作に撫でた。そうでもないと首を振りたかったが、そうと言っていいのか今一判断が付きかねた。
「あの、あなたは?」
「おっと、いけねぇ。俺ァニューゲート。オメェの…オヤジだよ」
にやりと笑って見せた顔は、自身の不安を煽らないためのモノだろうか。それはとても安心できるものに見え、つられる様に頬が緩む。するとまた、驚いたようにその双眸が見開かれどうしたのだろうかと首を傾げた。
「ところで、俺の事を聞いても?」
「おいおい、堅苦しいのは止めてくれ。オメェがそんな態度だとむず痒くてしょうがねェ」
「はあ…」
「お前は俺の息子だ。息子ってェのは遠慮しちゃあいけねェよ」
だろう、と笑う父親をそんな物だろうかと眺め、そんなものなのだろうと一つ頷いた。
「お前はロス、ここは白ひげ海賊団。ここにいる奴は皆俺の家族、つまりオメェの家族だ」
遠慮しねぇで頼っていいと、その言葉が自身を毛布でくるむ様に温めていく。何故だろうか。こんな気持ちはひどく久しぶりのモノで、同時に酷く得難いものに思えて瞳を細める。
「細かい事は追々でいい。今はゆっくり休め」
ここに敵はいないと、ニューゲートことオヤジは安心させるように笑い、自身も一つ頷いて見せた。
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