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前提として、昔から、ふらりと姿を消す事があった。
それは若い頃から知っている奴らは承知の上で、今更違和感も感じない程度には馴染んだ習慣だった。女でも買いに行っているのだろう。その程度の認識でしかなかった。
イゾウとて一人になりたい時もある。別段不都合もなかったゆえの、互いの自由を尊重した黙認だった。
しかしなる程と、イゾウは静かに眺めながら煙管を指先で弄ぶ。
先日、末の弟を助けた海兵の男と、マルコ。距離がある立ち位置にいるくせに、さらにはたから見ると赤の他人というには違和感がある。
その様を眺めながら連日連夜の宴と祭り騒ぎに気だるいイゾウの体は、くわりと欠伸を零して目尻に涙を溜めた。
あの海兵には、イゾウも覚えがある。
名は辛うじて記憶にあった。男の部隊とは牽制止まりの、睨み合いぐらいしかしたことは無いはずだ。というよりは、男の部隊はパフォーマンス的に牽制してくる以上の事をしなかった。なる程なる程とイゾウは一人合点がいく。
ナマエがマルコに話しかけた。マルコは隊長で、面倒見がいい。分からないことも相談も、マルコはいい選択だとこの船の誰しもが思うだろう。
しかし、ビスタも気がついている。ジョズはどうだろうか。若い衆は恐らく気がついていまい。それ程些細な差だ。オヤジこと白ひげは気付いてなお黙認しているところを見ると、イゾウがわざわざせっつくことでもない。それは分かっているが、長らく浮ついた話を聞かない長兄の浮ついた話となると、下世話な好奇心でついつい目で追ってしまう。
他人行儀というには随分と親しげで、知り合って日が浅いとするには随分と人となりを理解している。
旧知の仲の二人が、距離感を見失い戸惑う様によく似ていると思った。または久方ぶりに再会し素直になりきれない恋仲の二人。
チープな例えだが、まさにといった具合なのだ。
「なァ、やっぱそう思うか」
「だろうなァ。見ろよマルコのあの顔。見てるこっちが小っ恥ずかしくならァ」
「生娘かってんだ。あーケツが痒くなる」
「しかし、おかげで助かったってんだから馬鹿にもできねぇなァ」
「違いない。いつからだろうなァ」
「おいおい、それを言ったら馬に蹴られて死んじまうぞ」
「そりゃイテェ。でも教えてくれても良さそうなものなのになァ、マルコの野郎」
「本気なんだろ、そんだけ」
遠目に眺めた兄弟の顔。きっと本人は取り繕えているつもりなのだろうが、役者としては大根だ。
だがまぁ、それが可愛げと思えないこともないかと、イゾウはぎこちなく笑う長兄に変わって声を立てて笑っておいた。