■ 手のひらの上のわたし

事務の子から貰ったアロマキャンドルを暗い浴室で焚いてみたら、思いのほか雰囲気が出たので番も風呂場に引きずり込んでみた。

「まァ、悪くはないんじゃないかァ〜い?」

ぬるめの湯船に脱力した体を寄せ合い、斜に構えて見ればちょっとお高いラブホのような雰囲気に少しばかりテンションが上がっていたのだが、人を背もたれにするボルサリーノはそうでもないらしい。いつも通りの緩いテンションであくびをひとつ。

「わっしはこういうの眠くなっちまうんだよねェ〜」

「んだよ、喜ぶかなーって思ったのによぉ」

「ナマエは好きなのかァ〜い?」

「あー、そう言われると好きだなァ。暗いとこで光るもん。花火とか、夜景とか、星空とか蛍とか」

「意外とロマンチストだねェ〜」

可愛いだろ、と茶化してみると、存外ボルサリーノは同意をひとつ。からかうように笑みを浮かべて、ミルク色のやらしい湯船から組んだ足先が顔を出した。

これで音楽でも流れれば雰囲気は最高にラブホテルだが、流石にそこまでする気にもならずにボルサリーノを抱きしめながらゆらゆらと揺れるキャンドルの火を見つめる。必然的に視界に入る足がなんとも艶かしいが、癒しの空間の勝利なのか、そういう気分にはならなかった。真っ赤な嘘である。

「女みてぇで興味なかったけど、キャンドルも悪くねぇなァ。いー匂い」

「そうだねェ〜。わっしもこの匂い好きだよォ〜」

「どこに売ってんだろなァ」

「さてねェ〜」

だらだらとそんな会話をしているうちに、普段長湯なんてしない体はすっかりと温まり、ボルサリーノもまた頬に汗とも湯気ともつかない水滴がこめかみに伝う。

出るか、と声をかけようとする少し前、ふっと前触れなく吹き消されたキャンドルの灯りに数度瞬いていると、じわりじわりと手の中が光を帯びたものだからさらに瞬く。じんわりと広がる柔らかな光の中心で、その顔がやらしく口角を上げて見せた。

「光るもんが好きなら、わっしはどうだァ〜い?」

「可愛すぎて死にそう」

ああもう、のぼせちまう!