■ 身の丈に合ったものを選びましょう

クロコダイルという子供はなんとも気位の高い子供である。

出会いからしてまともでは無かったが、ここまで気位が高いとプライド云々よりもただほかのやり方を知らないだけではないかという気がしてきた。

人ごみに飲まれはぐれ弾き出された道端で、今にも泣き出しそうになりながら自身を探す子供を眺めだしてそろそろ三十分ほど経つだろうか。

きょろきょろと必死に辺りを伺い、彼と共に生活するようになってから初めて見る涙を必死にこらえ、それでも誰かが迷子かと声をかけてきた途端に泣きっ面を引っ込めて「お前には関係ない」と言い放つ姿は、不器用とか甘え方を知らないという域を突出していやしないかと葉巻をふかした。

些か、いや、かなり将来が心配である。

ここで声をかけたところで、どうせどこに行ってやがったとでも言うのだろうと思いながら、四人目の救いの手を身も蓋もなく振り払った子供をそろそろ助けてやるかと葉巻の火種を灰皿で押し消した。

とうに温くなった珈琲を喉に流し込み、マスター、ごちそうさんと礼儀正しく声をかけたというのに馴染みのマスターはさっさと行けと言わんばかりにため息をはく。

二階にある喫茶店の階段を下りればざわつくメイン通り。

同じ場所で相変わらず必死に自身を捜す子供を見つけ、どうしようもないなと肩をすくめた。

「クロ坊」

「…ナマエっ!」

声をかけた途端弾かれたように顔を上げた子供に、涙こそ光れど泣きっ面は見られない。いっそ賞賛ものの根性だと、案の定どこに行ってやがったと宣った子供を謝罪を返しながら抱き上げた。

「帰ろうか、腹減った」

「ナマエがはぐれなきゃとっくに帰ってる」

「悪かった、お詫びに夕飯は好きなもの作ってやるから」

こちらから抱き上げてやらなければ抱きついて来ることも出来ない子供を胸元に引っ付かせ、デザートもつけてやると言えば、クハ、と子供が笑った。可愛げはあるんだがなとその頭を撫でれば嫌がるフリをされ、止めれば寂しそうな顔をする癖にと難儀な性格に苦笑する。

「しょうがねえから許してやるよ」

「それはそれは、至極恐悦」

強がりもここまで徹底できれば将来大物になるかもしれないと、人の心配をよそに依然強がる子供を甘やかす為にキスを落とした。

クロコダイルとは、随分と身の丈に合わないプライドを持った子供である。