Twitterの旧垢で呟いてた事などまとめ

制作メモ&小ネタ集


 配給ブーツは砂を踏む。
 この靴も、白い制服も、随分と西洋に寄せたものだ。一世代も遡れば、自分と血を同じくする者が、こういう都市の衣服を羽織ることすらも無かったというのに。青年は陽光に目を細む。沙漠の砂にはにおいがない。鮮やかな白と青の情景、この中にその名を知るのは太陽ただひとつ。

「ここの景色も見納めなのかなぁ」
 不意の声に振り向けば、やんちゃな部下が似合わぬ表情で溜息をつく。嫌なら帰れ、を呑み込んで、さあな、と一つ。
 我々は時代の守護者であった。そして今からは、その破壊者へと成り替わる。己が膝を折る初めての王へ、思い出されたその顔へ、心なしか胸が痛む。
 恐らく、彼の人のもとへ頭を垂れることは二度と無いのだ。少なくとも、今ここにいる自分としては、もう二度と。いつもより軽い肩を陽光が灼き照らしている。目前の地平線は遥か東方へと続いている。ひとつ、背後から高い鷲の声を聞く。成る程、建国王の最後の警告か。男は小さく舌を打った。

「じゃ、行きますか」
 大きく伸びをした義弟は、左腕の腕章をぽいと砂に投げる。それを見た片割れも、支給の服を脱ぎ捨てて、やれやれ、と腕を振り回した。
よくやる、お前らは、と鼻で笑いつつ、青年もまた腰巻の上着を足元へ放り棄てた。帝国の威厳は力なく地へ垂れた。陽は高く見下ろしている。

 さらば故郷。
 背負うもののすでに別れを告げてある。あるいは、こちらが見放されたか。
 愛馬の背を撫ぜ、息を吐く。恐怖することなど無意味である。それが護れるものなど、取るに足らない。もっと大きなものに、立ち向かう勇気が、この手には必要だ。東方分団、その幹部だった双子は、男の両隣へ。

「俺達はカウィ族だ」

 その呟きに、弟達も深く頷く。
 開く目には光を。握る手には希望を。視界の何へも未練は無い。

 配給ブーツは砂を踏む。
 なつかしい生まれの沙漠。
 望むものは勝利ではない。決して血の代償にはなり得ない、唯一無二の誇り。


 踏み出す一歩は、待ち受ける運命を未だ知らない。


© 2012 zamzam

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