Twitterの旧垢で呟いてた事などまとめ

制作メモ&小ネタ集


「リドワーン、わたくしはここを去りますわ」
「ここ、というと」
「この国をです。もう国と呼べるものでもないのかもしれないけど」
「そんな……」
「わたくしはここにいてはならないわ。あの方やテイアたち、もちろんあなたも、みんなが作り上げたものをすべてだめにしてしまう。すべてを悲しみにしてしまう。新しい人々にも、きっとよい影響を与えられません」
「ファティマ様、そんな事は」
「気を使わないでいいのよ。わたくしが居なくなってあなたが困ることはないの。どうか何も言わず送り出して頂戴」
「いえ。できません、貴女をお守りするのも私の使命です」
「そんなものに縛られる必要は無いのよ。もうこれからは…」
「愛しくないのですか」
「何?」
「陛下やみんなが作り上げたものが。愛しくはないのですか。私はたまらなく愛おしい、だから手放せません」
「では、あなたは恋しくないの。そのみんなが笑っていた過去が」
「過去…」
「あれを憶えていてなお、今を見つめることが出来ないの。正しく導かれたつもりでいた、その結果がこれなのだと、信じたくないの。何が間違いだったのかも解りたくはない。目を開いている限り悲しみが寄せて。塗りつぶされていくわ。美しい日々も。愛したものたちも」
「ここを去ったってそれは変わりません…」
「離れてみなければわからないでしょう」
「私のせいですか」
「いいえ。違うわ」
「…王子も一緒に?」
「…ええ。あの子はわたくしが育てます」
「アシャの名をわすれて?」
「ううん。それはきっと出来ない。父の名を与えたんですから。でももう、愛する者が運命に浪費されていくのを見たくないのよ…。ハウディのことも、遠いどこかのお話で済ませられたら…。だからあなたも…どうかこれ以上あの子に関わらないで」
「…そうですね」
「ごめんなさい」
「いつか取り戻しますから」
「え?」
「いつか取り戻しますから、私が。失ったもの、奪われたもの全部です。ものの損害はそう大きくないんです。人の心がこちらへ向きさえすればいい…陛下のように、強い光にはなれないけれど」
「本気で言ってるの?」
「信じてください。託せる器には見えないでしょうが。いまはご覧のとおり隠居の身です。でも、いつか必ず」
「いつかって、いつなの」
「遠くない未来です。準備が整えれば、すぐにでも」
「不思議ね。貴方が言うと本気のように、実現することのように聞こえてしまう」
「実現します」
「そう…」
「その時になって空いているのはきっと玉座だけだ」
「…」
「いけませんか?」
「分からないわ。あの子の運命はわたしに決められない」
「成る程。分かりました」
「救ってくれるのね」
「…私が救われるために行くのです」
「そう。いい子ねリドワーン」
「…」
「ありがとう」
「いえ、まだ。ファティマ様は、帰って来てくださいますか」
「まだ決められない。あなたが呼んでくれるなら、きっと。その時わたしがこの世界のどこにいても」
「どこへでもお迎えにあがります」
「そうね。お願いするわ」
「きっとまた会えます」
「ええ」
「僕じゃない。みんなです。きっとまた会えます」
「ええ…」
「これからどちらへ向かわれるんです?」
「今から、そうね、わたくし、船は苦手のようだから、具合がよくなるまで海は渡らないつもりなの」
「馬で」
「馬ね。誰も知らないところでのんびり…そうね…。そうね。わたくし、ずっと暮らしてみたい場所があったのよ」
「ではそこへ住むんですか」
「ええ。きっと」
「どちらへ?」
「――東へ。」


© 2012 zamzam

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