真島さんの言われるがままに
私は東城会の会長、
大吾さんのいる部屋へと向かった




「し、失礼します・・・」

「ん・・・?
なまえか、どうした」

「あ、あの・・・実は真島さんから
伝言を預かってきまして・・・」

「伝言・・・?」




真島さんに見送られ
事務所を出る直前に
私は伝言を預かっていた



「2005年10月
都内、ルジャンドレにて
岐部、大谷、高岡
その他諸々と・・・、です」


さっぱり内容の分からない
カタコトな伝言をそのまま伝える


このフィルムは持って行くだけで
絶対に渡すな、と言われていた
万が一これを大吾さんに渡せば
私の身になにが降りかかるか
分からない、とまで言われると
フィルムを握っていた手は汗ばんでくる



どういう意味か分からないが
今目の前にいるのは真島さん
ではなく、大吾さんだ


危険が及ぶこともないだろう






そう思っていた






「・・・大吾さん??」


大吾さんは呆然としている
仕事をしていた手が完全に停止し
明らかに様子が可笑しい



「なまえ、そのフィルム・・・」

「あ、こ・・・これはっ・・・
カメラのフィルムだと
思うんですけど、真島さん
詳しくは教えてくれなかったんです」

「まだ、見ていないのか・・・?」

「は、はい・・・全く」

「そのフィルム、俺に・・・
渡してくれないか?」

「ごめんなさい、真島さんから
大吾さんに渡すなって言われてるんです・・・
あの・・・どうかしました・・・?」



いつの間にか大吾さんは
椅子から立ち上がり
徐々にコツ、コツとゆっくり
私の元へと近づいてくる

真顔なのか不機嫌なのか
分からない大吾さんの
おどろおどろしい雰囲気に圧され
私はびくつきながら後ろへと一歩下がる


「だ、大吾さん・・・?」

「・・・なまえ、そのフィルム
この後どうするつもりだ・・・」

「それは・・・」



私、なにか悪いことでもしたんだろうか
それとも、このフィルムが
とんでもないものだったり、とか・・・?


まぁ、それしか考えられないか





「・・・どうするんだ」

「どっ、どうしても中身が気になるなら
このフィルムを大吾さんに見せた後
自分で現像してこいって言われたので・・・
この後、お店に行って現像する予定です・・・」

「・・・!!」

「・・・どうかしましたか?」

「本当にまだ中身は知らないんだな・・・?」

「??はい・・・あ、でも真島さんに
この中身が、お前の好きなもの、って
いうことだけ伝えられてます」

「・・・やってくれるな、真島さん・・・」

「・・・どういう意・・・きゃっ!?」




壁に寄りかかり、後ろへと
後ずされない状況の私に
大吾さんは目の前まで詰め寄ると
私の頭の横へと手を伸ばし
上から覗き込むように壁に手を付いた



「っ・・・ど、どうしたんですか・・・」

「実は、そのフィルムには東城会に
携わる重要な情報が入ってる」

「えっ・・・でも・・・
私が好きなものって真島さんが・・・っ」



ドンッ、さらにもう片方の手も
顔の横の壁へとつかれ
大吾さんの顔が目の前へと
息がかかる程、接近する



「このフィルムを渡してくれないと
お前はきっと、東城会で出会った
大切なものを失うはずだ」

「大切な、もの・・・っ?」



大吾さんの懐から
微かに香る香水が
さらに私を戸惑わせる



「そうだ、それを失ってもいいのか?」

「そ、それは・・・っ・・・〜」



フィルムの中身なんかよりも
いまこの瞬間が、大切なものと感じた



心臓が、ばくばくと鳴り響く
大吾さんの力強い瞳に
見つめられていると思うと


息さえままらなくて






「・・・お願いだ、なまえ」



耳元へと口を近づけ
そう甘く囁かれると
優しく柔らかな唇が
私の耳元に触れた




「大吾さ、ん・・・」














突然頭が真っ白になり
私はその場でするりと
抜け落ちるように床へと座り込む



「なまえ・・・っ!?」




微か私の名前を呼ぶ声が聞こえ
その声を最後に私はそのまま
気を失ってしまった











prev next
back