日もすっかり暮れ
福岡という私の知らない街は
昼の姿から夜の姿へと
またもや景色を変えていく







「鈴木太一、ここで合ってるよね」




若干道に迷いながらも
桐生さんの住むアパートへと
たどり着いた私は

部屋の名前を
何度も何度も見直して
そこに鈴木太一という名前が
あることを確認する











"会いに来るべきだったんだろうか"










「大丈夫、大丈夫…
ここで会わずに帰ったら
此処まできた意味がないぞ」



無理やり、自分にそう
言い聞かせると私は
思い切りチャイムを鳴らした




ピンポーン






「はーい」






えっ?






私は耳を疑う

その声は紛れもなく女性の声で




私はもう一度部屋の
名前を確認する

だが、間違いなく
鈴木太一だ





ガチャリ、と開いた
ドアの奥には女性が居る

その女性の姿を見て
私はどんどんと不安になっていく






「はい、どちら様でしょうか?」

「あ…え、…えっと…
私、きりゅ…鈴木さんに
会いに来たんですが…」

「あ、居ますよ
今呼びますね」

「っ、ちょ…ちょっと待…」

「え…っ?」










駄目だ










やっぱり、会いに
来るべきじゃなかった


体が震えて会う勇気が出ない



「あ、あの…大丈夫ですか?」

「…わ、…私……」






それに相手が居ることさえ知っていれば
私はこんなところには来なかったのに






こんな綺麗な女性に
私なんかが叶うはずない

叶うわけない








私の知っている桐生さんは
もう、桐生さんじゃない



鈴木さんなんだ











どうして、今頃気づくんだろう












「まゆみ、誰か来たのか?」

「わ、私…帰りますね!」

「あ、ちょっと…!!」










その声は確かに
聞き覚えのある声で
胸の奥が切なく苦しくなる














私は桐生さんが好きだったんだ


















prev next
back