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「#エロ」のBL小説を読む
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劇場前で出会った男は
テレクラで聞いた年齢と
全然違って見えた



「もしかして、桐生さん?」

「お前・・・なまえか?」

「はい」



二つ歳の離れた二十歳というには
ちょっと歳上に感じる男性

なんだか、不動産の仕事を
しているようには見えなかったが
とりあえず、それは黙っておいた







_________________






「あの、先にシャワー浴びます?」

「あぁ、悪いな」

「いいえ」




別に緊張することもない
男性に惹かれることもない

そんな、とっくの昔に
無くしてしまった感情を




「今更、そんなもの必要ない」








男性がシャワールームへ入ると
私はベッド脇に置いていた
男の財布を手に取った





簡単に誘い出されて
することやったらやっただけ
そしてそれで、さようなら


そんな一夜限りの相手なんて




そんな相手なんて、
ただの浮かれた馬鹿だ




だから、騙される方が悪い







一度脱いだトレンチコートを
再度また羽織なおすと
その財布をバックへしまいこみ
外へ繋がるドアへと向かった





大きな革靴の横に
並べられた小さな靴を履き
ドアノブを手にかけた時だった




「どこに行こうとしてんだ」

「!」




低い声のする方へと
素早く振り返ると
シャワーを浴びていたはずの
男がタオルを巻いて立っていた



「・・・別に、どこにも」

「そうか、じゃあこっちに来い」

「きゃっ・・・!?」




まだ水気の切れてない
大きな腕に手首を掴まれ
そのまま部屋へと無理矢理
引きずり込まれると
ベッドの上へ身体を投げ込まれる




ベッドから男を見上げると
先程よりも体が大きく見え
そして「恐怖」を感じた

体が芯から震えて
逃げ出したくても
固まって動けない



徐々に近づいて来る男を
見ていることもできなくて
私は顔を逸らした





「俺と、してくれんだろ」

「・・・ち、ちがっ」

「なにが違うってんだよ
俺はもう、我慢できねぇぞ」

「っ・・・!」



顔の横にある手が
ドンッと勢いよくベッドへと着くと
男の体がそのまま倒れ込んでくる

同時に強引に胸元のシャツを
引き剥がすように引っ張られると
露出した首筋を噛んだかのように
強く唇で吸い付かれる




「いっ・・・・ゃあっ」



くっついた体を引き離そうと
片手をついて押そうとするが
その体は重く、女の力では
振り払うことができず
さらに体は密着してくる




恐い、



胸の奥からじわじわと
溢れ出し涙が瞳いっぱいになる



「ごめん、なさい・・・
もう、許して・・・・っ」





騙したりしたからだ
だから罰が当たったんだ






『悪いけど、俺は別に
お前との将来は考えてないから』







将来一緒になるはずだった人

私はあの日裏切られてから
他の人を信じることもできなくて

私には、それからずっと
男を騙して生きることが
その相手への報復になっていた



でも、今までしてきたことが
悪いことだと分かっていた
自分勝手だと分かっていた


だから、今こんな目に遭っているんだ







「・・・なんだ、恐いのかお前」

「・・・っ・・・ひっ、く・・・」

「こうして俺に襲われることくらい
分かって誘ったんだろう

それとも・・・端から狙いが違ったか?」

「・・・そ、それは・・・」





男はゆっくりと首から口を離すと
ベッドから起き上がり端へと座り込んだ

静かな空間の中で
ライターの音だけが
カチっと鳴り響くと
煙草をふかす吐息が聞こえる


隣を見やると
龍の刺青が掘られた
背中を見て更に怖くなる



「あ・・・あなた、一体・・・」

「・・・テレクラの店員に
たまたま頼まれただけだ
ホテルに男を誘い出して
金品奪っていく女を
捕まえてくれ、ってな」

「・・・・・・」




煙草を吸い終わると
男は私の傍に寄り
肌けたシャツを元に戻してくれる



「お前・・・なにかあったのか」

「・・・えっ・・・?」

「お金目的、か?
そうじゃねえだろ」

「・・・・な、なんで・・・
そんなこと聞くんですか?

それに、そんなこと話しても
あなたには関係ないのに」

「あぁ、関係ねえな
電話でお前に誘われて
止めるために来ただけだからな」

「・・・」





この人は、一体なんなんだろう
その男は、真っ直ぐで
真剣な瞳で私を見ている

騙してお金を持って
逃げようとしていた私に
何故ここまで深入りするのだろう






「もう・・・男を、信じられないの」

「じゃあ信じなくてもいいさ
もとよりお前は俺のことを捨てて
逃げる気満々だったんだろ?

信じるか信じねえかはどうでもいい
俺を単なる話し相手だと思え」

「・・・」





この人を甘く見過ぎていた
世の中にはまだこんな
人情溢れた男の人がいるのかと


信じる勇気は、ない





それでも、
心のどこかでこの人になら
素直に話せるような気がして




なぜなんだろう



_______________










話し始めてかなりの時間が経った

もう深夜だというのに
窓の外は外灯や電光板で
チカチカと光り続けている




すべて話終えた私は
体中の力が一気に
抜け落ちる程疲れていた

それに気づいた男は
私の傍に寄ると
大きな逞しい腕で
体を支えてくれる




すると不思議と、心が落ち着いた






この人は、私の話を
ずっとずっと、聞いてくれた

どちらか一方を責めるのでもなく
褒めるのでもなく、貶すこともなく






「・・・少し休むか?」

「いえ、大丈夫です・・・」




ただ優しい声を、かけてくれる





疲れた体で力を振り絞り
精一杯の笑顔を作っては
自分で自分に驚いた

裏切ろうとしたこの人の前で
自然と笑顔が出せるように
なっていたものだから






「お前は、それでもこれから
男を騙し続けるつもりなのか?」

「・・・それは」

「できることなら、もうあんなことは止めろ
お前の価値が、下がるだけだ」

「私の、価値・・・?」




自分の価値なんて
考えたこともなかった






「それでもお前が続けるって言うんなら
俺が、お前に騙され続けてやる」





低い声が心に突き刺さる





「お前が全うな男を見つけられるまで
お前が男を信じられるようになるまで」







そこにあるのは


大きな心だった









「俺が相手してやる」








瞳の奥から次々と
涙が込み上げてくる

悲しいんじゃない
辛いんじゃない





こんな落ちぶれた私を
救い出してくれる人がいることが

嬉しくて、嬉しくて






「もっと、早くあなたに会いたかった・・・」

「・・・今からでも遅くはねえだろう」




でもどこか悔しくて、切なくて

ぎゅっと握り締めた指の爪が
手のひらに食い込んで跡がつくまで

何度も何度も、握り返した





その手を優しく包み込みように
その人は私の手をこじあげ
無理矢理開かせる

その手は、とても温かかった




「もう自分を傷つけるようなことはするな
さっき、価値が下がるって言ったばっかだろ?」


一つ溜息をついて可笑しそうに
微笑み私を見つめるその顔は
この人に最初に会ったときには
想像できない程、優しい笑顔だった



そんな笑顔に私は
今までやってきたことを
改めて思い返し、そして悔やんだ


私は本当に今まで
酷いことをしてきたのだから










「・・・今からでも間に合いますかね?」

「あぁ、まだ間に合うさ」










この人が私に言ってくれた



”まだ間に合う”



その言葉が本当なら






「私、間に合うよう頑張りますから
だからそれまで・・・待っててくださいね」

「・・・急になんの話だ?」

「いえ、こっちの話です・・・」






自分のしてきたことを反省した上で
ちゃんと罪を償い、許されたなら
もう一度新しく始めたいと思えた





だから、私は新しくスタートすることを決めた





「困ったことがあればいつでも言え」

「!・・・ありがとうございます」






いつのまにか心を許し
信じきっているあなたを目指して





_____________________







※あとがき



「私、お金目的じゃなかったので
今まで盗んだお金持ってるんです
どうにか返せませんかね」

「いくら持ってんだ」

「1億です」

「・・・!?」

「どうかしたんですか?」


「え?あ、いや・・・そうか・・・そういうことか
(そういえば龍が如く0時代だった)」




ちなみに桐生の持ち金は
10億なのであった


さすが、バブル時代。



5/7 5:14





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