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冴島さんが釈放され
東城会へと戻ってきた日

私は真島さんに連れられて
冴島さんの釈放祝いに
焼肉を食べに行った





「またこの店かいな〜・・・
だからもっと旨い肉食える
店があるってあれほど・・・」

「俺は肉が食えればなんでもええ
それにな、ここのホルモンは格別なんや」

「お前・・・ムショ入る前も
ここのホルモン腐る程
食ってたやないか・・・」

「アホ、そのぐらい
ホルモンが好きなんじゃ」


兄弟の盃を交わした
真島さんと冴島さんは
とても仲が良くて

私はただひたすら
二人の会話が可笑しくて
ずっと笑っていた



「まぁ、今更言うのもあれやけど
元気しとったか、兄弟」

「おう、当たり前や
刑務所おる間、一日足りとも
筋トレを欠かした日はないで」

「お〜お〜、そりゃ
頼りがいがあるっちゅーもんやな」


注文したホルモン10人前を
軽々と食していく冴島さんを見て
真島さんは偉くご機嫌だった




「なまえ、俺の居らん間
コイツの様子はどうやった?」

「・・・私!?」

「なんでなまえに聞くんや」

「お前はいつも話盛るやろが」

「えっ、えっと・・・そうですね・・・」


急に話を振られて慌てるも
冴島さんが居ない間の
真島さんとの出来事を
頭の中で思い返してみた


しかし私が思い出せるのは
真島さんに無理矢理連れ出され
屯しているヤクザやチンピラを
相手している真島さんの姿を
隅でひっそりと眺めては
最後にバッティングセンターに行く
というのが日常茶飯事で
私の記憶にはそれしか無かった


私はありのままを
伝えてみることにした





「・・・って感じですかね」

「・・・なまえ、お前・・・苦労してたんやな」

「!!・・・は、はい・・・!」


私の立場の気持ちを
理解してくれた人は
冴島さんが初めてで
泣きそうになるほど嬉しかった

そんな私をみて真島さんは
ぎょっとした顔で冴島さんに
歯向かうように机を叩く



「おい兄弟、なんや苦労て!
ワシがどれだけコイツに
ごっついおもてなししてあげとると・・・」

「お前な・・・振り回されてる
なまえの気持ち、よう考えみぃや」

「さ・・・冴島さん・・・!」

「なまえはこれでも女の子なんやで」

「・・・ちょっと冴島さん、これでもって・・・」

「・・・女の、子?」

「なんで首傾げてるんですか真島さん」




はぁ、と大きく溜息をつく私

冴島さんは面白そうに
フッと笑うと肘をついて
真島さんを見つめた


「・・・ま、お前もなまえの事
好いてるんならもっとマシな所
連れて行ってやれや」

「・・・え?」 「・・・は?」



真島さんと私は声を揃えて
疑問を頭の上に浮かべた



好いてる?
真島さんが、私を?



そんな要素、ひとつも
感じたことはなかったし
あの真島さんが私のことを
眼中に入れてる訳がないと思った

そして私自身も
真島さんの事が好きかなんて
考えたことがなかった



「・・・ないですね」

「誰がこんなやつ
好いてるっちゅーんや」

「こんなやつって・・・」


ほらね、やっぱり。
眼中にないって分かってた



・・・分かってた




「なんや、違うんか」

「ちゃうわ」 「違います」



ここまで口を揃えてくる程
私のことをなにひとつも
気にしていない真島さんに
どこか、心を痛めてしまう私



「だ、だいたいですね!
真島さんは乱暴だし凶悪だし・・・
私なんかには合わないんですよ!」

「なっ・・・!」

「よう分かってるな、なまえ」

「俺かてお前みたいな
生意気な小娘合わへんわ!」

「っ!!真島さんの鬼・・・!」

「あぁそうや、ワシの刺青は鬼や」



ズキズキ、と痛む傷が
私の中でどんどんと広がっていく

挙げ句の果てには
つまらない意地なんか張ってしまう

私、・・・馬鹿みたいだ



「確かにこいつは悪の根源
みたいな顔しとる鬼やな」

「どの口が言うとんじゃ
極道18人殺しが・・・
って・・・お前どうしたんや」

「・・・すみません
私もう帰りますね」

「お、おい」


居ても立ってもいられなくて
すぐさま帰る支度をすると
私はぺこっとお辞儀をし
顔を俯かせたまま店を出た









「・・・うっ、・・・・・」


なんでだろう

私はいつも真島さんの傍に居て
そして誰よりも真島さんを
知っているような気がして
優越感に浸っていた


でもそれは、
ただ浮かれていただけ




「自分、なんで・・・泣いて・・・」


涙が出るほど
ショックだったことすら
自分でも驚きだった


「・・・真島さんにとっての
私って・・・そんなもの・・・?」


ぼそっ、と呟く私

すると後ろからカツカツ、と
足音が聞こえてくる
いつも隣で聞いていた
あのとんがった革靴の足音

―もしかして真島さん、
私を追いかけて・・・?



そう思って振り返る


けれどそこには
真島さんの姿はない



「そんなわけ、ないか・・・
・・・好いてないって言ってたし」


さっきの言葉を思い出すと
じわじわと溢れる涙
溢れ落ちる前に手で
ぐっと拭った時だった





「どこ見てんねん」



ぎゅっ


後ろから優しく抱き締められる
私を抱き締める腕は
あの派手な蛇柄の袖に
革手袋をはめている



「ま・・・真島、さん・・・」


そしてそう呼んで
振り返るつもりだった







ぎゅううううううううううううううううう


突然にその腕は
まさに蛇のように
絞め殺すかのごとく
私の身体に巻き付いた


「く、苦しい・・・まじま、さん・・・!」

「知るか」

「し、死ぬっ・・・死ぬぅう・・・」

「一回死んどけ、どアホ」

「じょ・・・冗談に、聞こえないです・・!」



その腕をバンバン叩くと
するりと解けるように力は抜けた


「・・・」

「・・・」




一時の沈黙の中
私は何を言えばいいか
分からなかった

しばらくすると
真島さんは溜息をつき
顔を上げて私を見つめた


「お前はホンマにアホやな」

「・・・すいません」

「なんでアホって言われるか
お前自覚しとるんか?」

「・・・すいませ」



おい、という声と共に
私は頬を両手でつままれ
ぐいぐいと引っ張られる


「それは答えになってへんぞ」

「い゛だい゛い゛だい゛〜・・・」





だって

私、真島さんの考えてること
ちっとも分からなかった

少しでも好いてて欲しかった
だけどそれは期待はずれ

なにも分かってない、私は




「私は、アホですよ」


強引に真島さんの手を
押しのけるとキッと顔をあげた


その直後
目の前が真っ暗になると
やわらかく温かいものが
唇に触れるように重なる





それは
真島さんの、影と
真島さんの、唇だった



「っ・・・!?」

驚いて私は腰を抜かし
その場に手をついて座り込むと
真島さんは私に目線を
合わせるようにしゃがんで
ジロリと目を見つめる





「好いとるわ、アホ」

「っ・・・?」




―これは、きっと夢だ






「なまえ、お前が好きや」


―夢に決まってる




でも胸が高鳴る

抱き締められたこと
唇が触れたこと
好きだ、と言われたこと
頭の中で混乱する


しかしすぐさまパシンッ!と
頭を叩かれ悩んでいたことすら
一瞬で忘れるような痛みに悶えた


「い、痛っ〜・・・!」

「いつまでぼーっとしてんねん!
・・・夢ちゃうわ」

「本当だ・・・痛い、・・・夢じゃない・・・?
・・・でもあの時好いてないって・・・」

「・・・あのなぁ、俺がアイツの目の前で
お前を好いてるなんか言えると思うか?」

「・・・思わない、です」

「せやからお前をアホって言ったんや」

「・・・!」


照れる仕草をする
真島さんを初めて見る


それはいつもより少しだけ
やわらかく見えた



「ほら、冴島が待っとるで」


眉毛を歪めて呆れた顔をすると
真島さんは私を強引に
引っ張り立たせて店へと向かう


そんな中、私はふと思った

無理矢理連れ出されても
そのせいで酷い目に遭っても
いつだったか満更でもない
と、思えた理由・・・



「・・・真島さん」

「ん・・・?」

「私も、好きです」

「・・・そないなこと分かっとるわ」

「私の返事、聞いて無かったのに?」

「断られた時は
無理矢理にでも好きにさせとったわ」

「・・・! 真島さん、強引ですね」

「俺はそういう男や」


それは真島さんが好きだったから
ずっと付き添って居られたんだ、と


私の心は知らない内に
強引な真島さんの手によって
連れ出されていたのだった





――――――――――――――――



※あとがき


なまえが出ていった
直後の二人



「追いかけんでええんか」

「・・・言われんでも追いかけるわ」

「はよ行ってこい」

「・・・!」 


バタンッ



「・・・まるで鬼ごっこやな


・・・あ、鬼は追いかけられる方か」


一人ツッこむ冴島さん




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