×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -


※この作品は「六代目と静寂」から
 話が繋がっています
 読んでない方は先にそちらから
 読まれることをオススメします



――――――――――――――――




「みょうじ」

「はい」



この方は、唯一私を名字で呼ぶ
桐生さんと真島さん、あの冴島さんだって
私のことは名前で呼んでくれるのに

お堅い人だな、なんて思う



「堂島さん、どうぞ」

「ありがとう」


けれどそんなことをいう私も名字で呼ぶのだ
それは致し方ないことなのかもしれない



私だって、桐生さん達のことを
名前で呼んだことはない
もし、名前で呼んでもいい
だなんて言われたとしても


私なんかがこの人を、名前で
呼ぶ権利なんて、ないんだろう


「・・・これは?」


私が差し出したお茶を
一口飲むと問いかけてくる


「それは、この辺りで有名な
茶屋のお茶です」

「そうか・・・」


全くと言っていい程
その表情ひとつすら変えずに
私に一言返すともう一度

ごくり、とお茶を飲み干す



緊迫感溢れる、静かな部屋は
東城会の一室を借りた
堂島さんと私だけの空間だった

一枚のドアを隔てた向こう側には
堂島会長のボディガードが立っている


そんな静けさに落ち着くことができなくて
堪らず私は堂島さんに声をかける


「あの・・・私、この場にそぐわないと思うんですが・・・」

「・・・そうか?」

「はい・・・だって、私・・・極道じゃ、ないし・・・」

「堅気でもないしな」

「そ・・・そうですよ」

「けど、此処に呼んだのは俺だ」

「は・・・はい・・・」


そう、私は堂島さんに呼ばれて
ここへ招かれたのだ


私の元へとかかってきた
知らない番号からの着信をとると
堂島さんの声だということがすぐに分かった




初めて堂島さんに会った日
口づけを交わす直前にまで至った

そんな距離で私の名前を呼ぶ声が
ずっとずっと、私の頭の中を
駆け巡って離れなくて



「・・・お仕事の、邪魔になりませんか」

「俺が呼んだんだ、そんなこと気にするな」

「・・・はい」


山のように積まれた書類を
真剣に見ている堂島さんの姿を
私はじっと、見つめてみた
こうして見つめてみると
まつ毛が長いことが分かる

そんな様子に堂島さんは
私をふと見上げた


「・・・すまない、退屈だよな」

「い、いえっ・・・そんな」

「いや、客を呼んでおいて仕事を
するのは非常識だった・・・」



険しそうに書類を見ていたその顔は
優しげな顔に変わり、私を見つめる

その静寂の中でとくんとくん、と
どんどん早くなっていく私の心臓の音が
部屋中に聞こえる気がした


「は、恥ずかしいです」

「・・・なぜだ」

「そんなに、見つめられると・・・」


そんなことに構わず
堂島さんは私の腕を
自分の元へと引き寄せて
セレナで出会ったあの時のように
顔を近づけてさらに見つめる


「前にも、こうしたことがあったな」

「・・・はい」

「まぁ・・・し損ねてしまったが・・・」

「・・・、はい」

「・・・嫌じゃ、ないか?」


私の輪郭をゆっくりなぞっていく
その指は長くてとても、綺麗だった


「あの時も今も・・・私は嫌だなんて
ひとつも思いません・・・」

「・・・みょうじ」



そうしてまた、私を名字で呼ぶのだ
私はそんなちょっとしたことが
気になってしまい、話を切り出した



「堂島さん・・・ひとつお願いが」

「・・・どうした」

「私を、名前で・・・呼んでください」


堂島さんは目を見開かせると
いたたまれないような顔をして苦笑する



「・・・先に言われてしまったな」

「えっ・・・?」

「なまえ、好きだ」



その告白と同時に
そっと触れるような口づけをされる

こんなにも優しいキスがあるのか
というほどに、そっと


堂島さんの静かな雰囲気が
口づけにも表れているように



そして唇を離し、お互いの顔を
見つめているときだった



コンコン、とドアをノックされる


「会長、今よろしいでしょうか」





ドアの外から部下の声がする

せっかくの雰囲気が崩れたことに
私は落ち込んでしまう


「堂島さん、呼んでますね・・・」


私は再度堂島さんを見上げる

すると突然、彼はらしくない
大きな声でドアの向こうに返事をした



「すまないが、手が塞がっている
 後にしてくれ」

「は、はい・・・失礼しました!」



私はそんな声に驚いてしまうと同時に
先ほどのとは打って変わり堂島さんは
とても強引に私の唇を奪った


「んっ・・・ふ・・!?」

背中へとまわされた腕で抱きしめられ
身体は密着し、服が擦れる音がする





とても深く長いキスだった




「・・・はぁっ・・・・はぁっ・・・」

「・・・はぁ・・・」


お互いの吐息が混じり
顔を見つめ合うと
くすりと笑いあった


「俺たちはいつも誰かに邪魔されるんだな・・・」

「ふふっ、そうですね・・・」

「・・・さっき言いかけたんだが、なまえ
お前も、俺のことを名前で呼んでくれないか」

「っ・・・ほ、本当に・・・いいんでしょうか?」

「今更、なに言ってるんだ」


そういうと苦笑混じりに私の頭を撫でる



「・・・だ、大吾さん・・・」

「・・・・どうした」

「大吾さん・・・私も好きです・・・」

「・・・あぁ俺もだ」


それから二人はお互いを
名前で呼び合うようになったのだった





―――――――――――――――――――


※あとがき

「大吾さん・・・大吾さん、大吾さん」

「なまえ・・・そんなに呼ばなくてもいいだろう」

「だって・・・名前で呼べるなんて、嬉しくって・・・」

「っ・・・こっちに来い」

「・・・??」

大吾は愛おしくて堪らず
なまえを強く抱きしめた





prev next
back