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「#エロ」のBL小説を読む
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恐ることなく立ち向かい
数え切れないほどの修羅場を
切り抜いてきた堂島の龍

この男に勝てるものは、誰一人としていない


ただ私は、そんな真実に
抗ってみようと思った






「桐生さん」

「ん?」

「いつもかっこいいですね」

「・・・・・・?」

「ほんとかっこいい」



攻める私

言っていることは本当の事ではあるが
こうして褒め称えることによって
弱らせて桐生さんに白旗を
挙げさせる、という作戦だ

少し卑怯な手ではあるが
勝てるとすれば、それしかない


しかし、龍の白旗・・・見ものである



「なまえ」


桐生は頭を掻きながら
なまえに視線を合わせた


「お前、頭でも打ったのか・・・?」



ずこー


駄目だ、照れる仕草なんてしやしない
それとも、色んな女性に散々
言われてきたのだろうか


「熱でも測るか?」

「・・・」

「・・・なに怒ってんだ?」


意味不明だと桐生は首を傾げる
作戦1、失敗に終わる




―――――――――――――――――――


次の日


「桐生さん」

「なんだ?」

「私のこと、好き?」

「・・・急にどうしたんだ」


手応えはアリだった
桐生は気味が悪そうな顔でなまえを見る



「好き?」

「あぁ、・・・当たり前だろ」

「どれだけ、好き?」


そして私は攻めて、攻めまくる
照れて勘弁してくれって感じで
私に降参するのだ、さぁ・・・こい!


しかし桐生はすぐさまなまえの頭を
引き寄せて、強引に口づけをする


「んんっ・・・!?

はぁっ・・・桐生さん・・・?」


私は不意をつかれて
心臓が飛び出そうな程、ときめいてしまう


「・・・・これだけ好きだ」



なまえは、かぁっと頬を紅潮させた


「不意打ちは・・・ずるいですよ・・・」

「お前がそんなこと言うからだ」



作戦2、またもや失敗



――――――――――――――――――


さらに次の日



「桐生、さん・・・」

「・・・なんだ」


またか、と呆れた顔で桐生はなまえを見る

きっと私の今までの作戦に勘づいたのだろう
だが、今日は今までみたいにそうは行かない

桐生さん、覚悟・・・!



「・・・私、桐生さん以外の人ことが
好きに・・・なっちゃった、みたいです」


名づけて「浮気します」大作戦
少し酷ではあるが最終手段はこれしかなかった


―さぁどうするっ、桐生さん!


私は申し訳ない気持ちで暗い顔をする
という女優ばりの演技を通す最中
このスリルを味わっていた


しかし桐生は一切喋ることなく
眉間の皺をいつも通り寄せて
なまえをじっと見つめた


「あ、・・・あの・・・桐生さ」

「その男ってのは、誰だ」



なまえの声と被せるように
怒声に近い声を発した

その顔はとても真剣だった
でも私は、それでも負けられない


「・・・教えません」

「・・・なまえ」

「きゃっ・・・!?」


桐生はなまえを壁に手をついて
力強く恐ろしい瞳で追い詰める


「き、きりゅう・・さ」

「誰なんだって言ってるんだ」


桐生の怒ったようで、切ないその声は
喉からやっと絞り出せたような声だった

私は堪らず息をゴクリと飲んだ


「・・・あ、秋山・・・さん・・・です」


―秋山さん、ごめーん!!

パッと出た答えは何故か秋山さんだった
別になにか恨みがあるわけでもないのに


名前まで言うつもりはなかった
俺と別れないでくれって言われると思っていた
それで「私の勝ちです」って言って
この作戦を終えるはずだったのに

とんでもない事を起こしてしまった気がする


「・・・秋山か」


桐生はその名前を口にすると
素早く立ち上がって玄関へと向かっていく



―あ、秋山さんが殺される!

この作戦はもう駄目だ、失敗だ!
冷や汗をかいて私はすぐに桐生さんを追いかける


「き、桐生さんっ・・・!!」

「・・・」


桐生さんは顔だけ振り返ると
私を冷たい目で睨みつけるようだった

今までそんな目で見られたことがなかったのか
恐怖と寂しさ、二人の間に一瞬で溝ができたことの不安から
なまえは瞳いっぱいに涙を溢れさせた


「ご・・・ごめんなさいっ・・・ごめんなさい桐生さんっ」

「・・・」

「嘘、なんですっ・・・ちょっと意地悪したくてっ・・・
桐生さんをからかおうと思って・・・それでっ・・・」


ぼろぼろと溢れ落ちる涙

私の身勝手な悪戯によって
桐生さんを傷つけて、自分も傷つけてしまった

そんな申し訳なさが募る


「桐生さんっ・・・桐生さんっ・・・」

「・・・なまえ」

「本当ですっ・・・私が好き、なのは・・・
桐生さんだけです・・・っ」


桐生はふぅ、と大きな溜息をつくと
なまえの目の前まで近づいた

呆れ返っている、こんな私に失望しただろう
そう思ったときだった


頭にぽん、と手を乗せて桐生は言った


「俺が降参なんて、すると思うか?」

「へっ・・・?!」


涙が止まらないままなまえは
顔を見上げると

桐生はニヤリ、と笑った


「お前、俺を降参させたかったんだろ」

「なっ・・・なっ・・・」

「俺が気づかないとでも思ったのか?」


くくっ、と可笑しそうに桐生は笑う
この男には、私の考えなんてお見通しだった


「そ、それじゃあ・・・桐生さんがさっき・・・」

「お前より俺の演技のほうが、一つ上手だったみたいだな」

「・・・!」

桐生はそう言って肩を抱き寄せると
なまえの涙を指で優しく拭って
深い口づけを交わした


「・・・私の、負けですね」

「あぁ、俺に勝とうなんて思ったのが間違いだったな」


そうしてお互い笑い合う
なまえは改めて、幸せを感じた





この男に勝てるものは、誰一人としていない

そう、誰ひとりとしていないのだった





―――――――――――――――――――――


※あとがき


「秋山」

「お、桐生さんじゃないですか
珍しいですね、ウチに来るなんて」

「・・・まぁな」

「どうしたんですか、そんなに改まって」

「・・・秋山、なまえに手・・・出すなよ」

「へ?」

「それだけだ、じゃあな」

「お、俺・・・なにかしたっけ・・・?」






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