「キミは…、んー確か、水端クンだね?」
「黒子です」
「失敬、最近はここにくる人も多くなったから」


顔と名前が一致しないんだ、といって僕の隣に座るその女の人。制服を着ているが、こんな人、僕はしらない。一体誰なのだろうか。


「あの、貴方は誰ですか?」
「しがない相談役ですよ」


相談役。それは噂で聞いたことがあった。
悩みを抱えたひとの前に突然現れる女子生徒。普段は誰も見たことがなく、悩みを抱えたひとが、屋上にいくと会える、なんていう七不思議。まさか、本当にあったとは。まじまじと彼女を見ていると、その視線に気づいた彼女は、僕の顔を見て、うーんと唸った。


「…何ですか」
「へぇ…バスケかー…ふぅん…」
「え、なんで知って…」
「私に知らないことなんてないよ」


君はどうしたいの?なんていって彼女は僕の胸に手を当てた。そんなの、僕が聞きたいですよ。小さく零れた本音に、彼女はそうだね、と微笑んだ。


「今はそれでいいんだ、ちょっとくらい立ち止まっても」
「は、はぁ…」


なんというか、不思議な人だった。ヘラヘラとした態度だけれど、言うこと1つ1つが胸に突き刺さる。僕はどうしたい?そんなの僕が知りたい。自問自答を繰り返すうちに、なんだか心が痛くなり、胸を押さえる。そんな僕の頭を、彼女は優しくなでてくれた。


「…そうだね、痛いよね」
「僕は、」


どうしたらいいんですか?
問いかけたと同時に授業が始まるチャイムの音が鳴り響く。顔をあげ、時計を見ると、授業が始まる5分前だった。


「あちゃー、今日はここまでかなぁ。んじゃあまたねー」
「あ、あの!」
「ん?」


去り際にもう一度振り返り、彼女に言葉を投げかける。


「名前…聞いてもいいですか?」
「…私は名前っていうの」
「名前さんですか…あの、また…話を聞いてもらっても…」
「私でよければ」


なんだかいつもより心が軽い。午後の授業も、頑張ろう。

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