「あー、雨…」


昨日の快晴は何処にいったのやら。どんよりした空から降りしきる雨を見て、私は落胆した。『今日は全国的に晴れるでしょう』なんて朝言っていた気象予報士に傘を投げつけてやりたい。けど、気象予報士に投げれる傘なんて持ってるわけもなく、ため息を吐き捨てた。


友人は先に帰ってしまい、もう私には雨にぬれて帰る選択しかないだろう。仕方ないか。覚悟を決めて雨の世界へと踏み込む。


「雨の中濡れて帰るつもりか」
「へっ?」


突然、後ろから声がして振り返ると、最近エンカウント率が高い赤司くんが立っていた。



「あれ、赤司くん…部活は?」
「今日はこの雨だからな。早めに切り上げた」


ちらりと赤司くんが後ろを見る。つられて私も後ろを見ると、色とりどりのバスケ部の方々が、がやがやと固まって此方に来ていた。


「赤司、そいつは誰なのだよ」
「あぁ、彼女は名字名前」
「名字です…」
「あれー?赤司っち、友達いたんスかー?」


なんとシュールな光景だ。と、いうより。この場に友人がいたらきっと失神してるんだろーなぁ。黄瀬涼太目の前にいるし。あと、みなさん身長が高い。


「赤ちんの友達ー?あ、お菓子いるー?」
「あ、ありがとう…ございます…」
「え、何?赤司このちんちくりんと付き合ってんの?」
「ちっ…?!」
「ちょっと青峰くんっ!女の子にそんなこと言っちゃだめだよ!」
「…青峰、名字を苛めるな」


ちんちくりん発言にがっくりとしていると、ピンクの女の子と赤司くんがフォローを入れてくれた。でも、そんなおっぱいぼいんな美人さんに言われても…フォローにならないよ…。揺れるおっぱいを眺めていると、後ろからにゅっと人が出てきた。思わずその場に尻をつく。


「初めまして」
「はっはい…」
「赤司君のチームメイトの黒子と申します」
「黒子くんですね」
「先日、体育館で赤司君に向かってハローと言ってましたよね?」
「え、なんで知って…?!」


僕も見てましたから、なんてさらっという黒子くんに顔が引きつる。あ、あれは赤司くんにしか見られてないはず。か、過去の事を掘り返すのはやめてほしいな。


「はぁ」
「…なかなかのカタコトでした」
「もう忘れてくださいよ…」


黒子くんに手を引っ張ってもらい、その場に立つ。なんというか、疲れる。あと周りの視線も結構きついし。もう帰ろう。そうだ、帰ってお風呂に入って寝よう。そう思い、バスケ部面子に向き直り、帰りの挨拶をする。


「では失礼しますね」
「待て」
「うぎゃっ」


帰ろうと足を進めるが、赤司様が私の腕を掴んで、前に進めない。振り返って顔を上げると、目の前には少し機嫌の悪い赤司様。お、怒ってらっしゃる…?


「えっと、赤司様?」
「帰るぞ」
「え?」
「黒子、オレは名字を連れて帰るから先に失礼する」
「はい」
「え、いいですよそんなの!赤司さんもみなさんと一緒に帰ってくださいっ!!!」
「…そうか、オレの折角の好意を踏みにじるのか」
「いいいいいえ!!是非送ってもらわせていただきますっ!!!!!」


赤司様の黒いオーラが出てきたところで、赤司様の言うことを聞き、送っていただくことに。ばっと勢い良く開いた傘。半分に赤司くんが入っていて、私は腰引け状態でお邪魔する。うう、周りの視線がいたいです。


「…どうかしたか?」
「い、いえ…ホントにご迷惑をかけてすみません…」
「日頃から折りたたみ傘を鞄に入れておくことだな」
「…はい。ありがとうございます」
「…あぁ」
「…」
「…」


緊張して、会話が続かない。チラッと斜め上の赤司くんの顔を覗き込む。そう、私はこの人に一目惚れをしてしまったのだ。そう思うと顔に熱が集中し、彼の顔が見れなくなる。思わず俯いていると、赤司くんがどうした?と私の様子を伺う。


「えっと、何でもないんです…ホントに」
「そうか。肩が濡れている。もう少し此方へ寄ってくれ」
「っ!!」


優しい手ですっと肩を寄せられる。そのさり気ない優しさだとか、時折見せるやわらかい表情だとか、もうその彼の全てに私はイチコロなんだ。彼の手と傘の中で改めて感じさせられた。


(もっと好きになっちゃう)
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