今日は生憎の雨のようだ。今日の天気予報は外れたようで、傘を持ってきていない。
「…結構降ってるなぁ」
淀んだ空を見上げ、どうしようかと考える。友達は生徒会の仕事とかなんとかで、いないし、購買の傘は売り切れ。困ったなぁ。
これじゃあ雨に濡れて帰るしかないか。しかたなく私は、鞄を頭の上に被せ、雨の中に足を踏み入れる。
「この雨の中、傘なしで歩いて帰るのか?」
後ろから声が聞こえて、ばっと振り返る。そこには、傘を持った赤い彼が、呆れた顔をしてそこに立っていた。
「えへへ、傘を忘れてしまって」
「…今日の予報は午後から雨だっただろう」
「今日は寝坊したのでそれどころでは…」
私の言い訳を聞いた彼の眉間にシワが寄る。どうにかして彼の機嫌を取り返そうと、出来るだけ笑顔で話の話題を変える事にした。
「そ、そういえば、今日は部活休みですか?」
「…今日はこの天気だからな、早めに切り上げたんだ」
彼がちらりと後ろに視線をやる。するとぞろぞろとバスケ部らしい方々が体育館から出てきた。
「あら、征ちゃん。その子は?」
「名字と申します…」
「え、何?もしかして…赤司の彼女?」
「えっ?!えと、その…」
「赤司にもそういう者がいたのか」
「あまりそいつをからかうな」
大きな人たち3人に迫られていると、彼が止めに入ってくれた。…個性的な人たちだなぁ。そういえば、こんな光景を前にも見たことがある。そう、それは中学生の時だったはず。あのころは確か…。なんて思い出すと、なんだか懐かしくてつい笑ってしまった。
「…どうした?」
「ふふっ、前にもこんなことがあったなぁと思いまして」
「…あぁ、あの時か…懐かしいな。2年のころ、だったか」
彼も思い出したようで、曇り空を仰ぎながら口元を緩めた。雨はどんどん強くなるばかりである。
「なぁにー?甘酸っぱい青春の思い出?」
「なんでもない。玲央、俺は彼女を送って帰る」
「ふふっ、了解」
「…さぁ、どうぞ」
なんて言って彼は傘を広げ、私をその傘の中に招き入れた。失礼します、と傘の空いた右側にお邪魔する。後ろのバスケ部の方々に挨拶をし、さぁ帰ろうか、とゆっくり歩き出す。
「名前、もう少しこちらへ寄ってくれないと君が濡れてしまう」
「でも、それでは征十郎が濡れてしまうわ」
「なら、もう少し寄り合おうか」
「そうですね」
彼と触れた左肩が、ほんのりと暖かい。