午前5時。遂に私は覚醒した。


「このときがきたか…」


昨日から準備しておいた服を素早く着て、顔を洗う。今日のためにためておいた500円玉専用貯金箱からすべての500円玉を取り出し、紐つきのがま口財布にしまう。猛暑対策のタオルと団扇とエトセトラをかばんに詰め、小さめのキャリーバッグを持てば準備は整った。


「…いくぜ!」










まだ薄暗い外を、少し駆け足で進む。数分で駅に着き、待ち合わせの場所へと向かう。待ち合わせ場所の駅の切符売場前にいけば、待ち合わせていた人がいた。帽子を被っていて顔は見えないが、恐らく、彼だ。遅れてごめんなさい、と駆け寄れば、僕も今来たところだから大丈夫です、と午前5時とは思えない紳士な笑顔を向けてきた。早朝からまぶしいなこのやろう。ちなみに、彼こそが実はヲタでした的なあの黒子氏である。


「赤司氏はまだですか?」
「さっき今から向かうとメールが入りました。きっと楽しみで眠れなかったんでしょうね」
「え?私寝てませんけど」
「奇遇ですね、僕もです」


なんて話していると、遅れてすまない、と赤司氏がキャリーバッグをごろごろ転がしながら此方へやってきた。ふむふむ、今日は眼鏡ですか。


「赤司君、眼鏡かけるんですね」
「普段はコンタクトだ。黒子もそうだろう?」
「僕も基本コンタクトですかね。名字さんは?」
「私はあまり目が悪くないので基本的にはこのままですかね。じゃあ3人そろったことですし、そろそろ行きましょうか」



本日は、同人誌即売会です!











「うわー、今回も人多いですねー」


年に数回開催しているそこそこ大きなイベントにやってきました。去年まではツイッターで仲良くなった子とか、ぼっちでとかの参戦だったけど、今年は赤司氏と黒子氏の3人で参戦することに。誘ったのは私なんですけどねふへへ。スタッフさんの指示に従い、列の最後尾に並ぶ。


「そういえばお二方、部活は大丈夫でしたか?」
「今日は練習試合だからな、問題ない」
「そうですね、他の人達もいますし」
「…ん?なんかそれおかしくないですか?」




「緑間。次の試合の指揮はお前に託す」
「…何を言っているのだよ、ふざけたことをいうな」
「俺は何が何でも次の試合に出ない」
「理由を話せ」
「………………家の用事だ」
「なんなのだよその明らかな間は」
「何でもいいだろう。兎に角、次の試合、俺は絶対に出ない」
「…この忙しい時にお前という奴は…」





「まぁ…こんな感じで俺は回避した」
「さ、さすが赤司様ですね…」
「黒子はあの緑間をどうやって説得したんだ?」
「僕はですね…」




「緑間くん。僕次の試合、休みます」
「お前もか黒子!全く…赤司といい黒子といい…その日は何があるのだよ」
「まぁ、色々です」
「詳しく話せ、詳しく。じゃないと俺は許可せんぞ」
「僕たちの夏の戦いが始まるんですよ」
「訳のわからんことをいうな!常識の範囲で話せ!」
「…そういえば緑間君、今日のラッキーアイテムのラビ太のキーホルダー、欲しいと言ってましたよね」
「そ、それがどうしたのだよ」
「僕、それ持ってる「よし分かった。その日は存分に戦って来い」





「みたいな感じですかね」
「やだラビ太強い」
「鞄に兎がついていたとは思っていたが、そういうことだったのか」


どうやらそれぞれの事情があるよう。バスケ部も大変だなぁと思っていると、前から数人の女性が、チラチラとこちらを見ていた。はて、何か用があるのだろうか。ぱちくり、と目があうと、その人たちがこちらにかけよってきて、あ、あの!とわたしに話しかけた。


「も、もしかして…ペンネームさんですか?!」
「え?」
「は?」


その質問に答えたのは私ではなく赤司氏と黒子氏。 いや、何故君たちが答える。


「えっと…人違い…でしょうかっ?スミマセン!」
「いーえ、私がペンネームですよ」


そう答えると、その女性たちは、わぁっと騒ぎ、何時も絵見てます!と言って差し入れをくれた。え、なにこれ超嬉しい。


「わわ、ありがとうございますー!」
「ペンネームさんが来ると聞いて探してたんです!」
「こんな奴の為にわざわざありがとうございますっ…!」
「ペンネームさんの猫擬人化シリーズ特に好きなんです!スコティッシュちゃんが可愛くて…!!」
「私も好きです!私はアメショくんが…!!」
「そうでしたか!あ、でしたら…」


ごそごそ。鞄の中から差し入れとして用意しておいた猫擬人化シリーズのデコチロルを出して、女性達に差し出した。


「うわ、え、え、いいんですか?!」
「もしよろしければどうぞー」
「あ、あああ、あありがとうございますっ!!家宝にしますっ!!!!」
「あの、もしよかったら握手してくださいっ!!」


その後、その女性たちはわたしと握手をして別の列へといってしまった。女性たちがいなくなり、赤司氏と黒子氏に向き直ると、すごいびっくりした顔で私をみていた。な、なんだ。


「おまえが…あの…ペンネームさんなのか?!」
「え、あ、言ってませんでしたか?」
「驚きです。僕猫擬人化シリーズすごく好きです」
「わわ、そういっていただけるとうれしいですー!というより、2人とも私のこと知ってたんですね」
「俺も猫擬人化シリーズは好きだが、季節擬人化が1番好きかな。春の子が可愛かった」
「わ、そんなこと言われると照れるんでやめてくださいよ」


その後、私の絵のこととか、擬人化についてなどを語り尽くして、開場までの時間を楽しく過ごした。
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