「すーはー」


遂にやってきた放課後。赤司氏に差し入れという名のファイルを渡す時。

髪を巻いて、少し薄く化粧をして、スカートを短くすれば私もミーハー系に。スカートすーすーするけどね。

昨日練習したし、ファイルは疑われないように黒い袋に入れたし、ちゃんとタオルもいれたし。うん、準備は整った。


いざ、戦場へ!!!




「あっ、あのっ…!赤司くん…いますか…?」








*






「あっ、あのっ…!赤司くん…いますか…?」


そう呼ばれて俺ははっと振り向く。そこには、いつもとは違う雰囲気…ミーハー系に化けた名字が体育館の扉の前で立っていた。


「キャプテンに何か用ッっスか?」
「あ、黄瀬くん…っ!え、えと、赤司くんに用があってきました」
「用…っスか、ちょっと待っててくださいっス」


黄瀬(態度から見てどうやら名字だと分かっていない様)と話し始めた名字の近くへ寄り、要件と聞く。黄瀬が俺を呼び、小声で差し入れみたいっスよ、と呟いた。俺が呼んだんだ、当たり前だろ。


「俺に何の用だ」
「えと、あの!少しいいですか?」
「…3分で済ませろ」


体育館から離れて、2人になる。前に立つ顔を赤くした(恐らく演技)名字が、控えめに袋を差し出した。


「あのっ…良ければこれ…受け取ってくださいっ!」


差し出された紙袋。それは俺が求めていた物が入っている。普段なら断るが、そういう訳にはいかない。


「受け取っておくよ」
「あっありがとうございますっ…!」
「それにしてもかなり声を作ってるんだな」


レベルの高いアニメ声。それに突っ込んでやれば今まで顔を赤くしていた名字が、ヘラっと笑ってそうですかね?と首を傾げた。


「…澪ちゃん風にしてみました」
「思った通りだ。流石だな」
「そんなことないですよー!まだまだ未完成なんで」


同じ趣味について語れる仲間。あぁなんて楽しいのだろうか。なんて思っていると、体育館から俺を呼ぶ声がした。


「…済まないな、手間をかけさせて」
「いえいえ、たった1人の同志様の要望ですから」
「感謝する。あと、これと」


名字に差し出した紙袋。中には勿論交換するファイル。それを渡すと、名字はとても嬉しそうな顔をして受け取ってくれた。


「ありがとうございます!」
「じゃあ、俺は練習があるから」
「あ、私の袋の中にメモとタオル入ってますから。メモには私のツイッターアカウント書いてますので是非絡みましょう。タオルは良ければ使って下さいね。1枚は普通のですが、もう1枚は東方なんで使用する際はお気をつけて」


去る間際に小声で名字が小さく耳打ちをした。それから、体育館に戻り、袋の中身を確認する。黒い袋に入ったファイルと、小さなメモと、無地のタオルと柄の入ったタオル。あぁ、この事をいっていたのか。


「…赤司君が差し入れ受け取るなんて珍しいですね」
「借り物を返しにきただけだ」
「あれ?でも赤司っちもなんか渡してなかったッスか?」
「借り物を返しただけだ」
「怪しいっスねー…何か隠してるんスか?」
「…黄瀬、外周5倍だ」
「えぇ?!ひ、酷いッスよー!!」
「練習再開するぞ」


ダラダラと休憩している一軍を呼んで練習を再開させる。いつもより気分がいいのは、気のせいにしてくれると嬉しい。
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