ふぁみふぁみふぁみーまふぁみふぁみまー


独特の音楽でお客様を迎えるここ、ファミリーマート駅前店。学校の帰り道は、いつもお世話になっている。

ここの店はその辺のマジバや、学校近くのローソンとは違い、帝光中の人は滅多に来なくて、鉢合わせ率が極めて低い。気楽に買い物ができるのだ。


はてさて、何故私がこんなに隠れてここのファミマを愛用しているのかというと。


「みっくみっくにしーてやんよー」


ミクフェアなのだ。フェア期間内、ファミマで対象の商品を購入すれば、限定クリアファイルがついてくる。全部で39種類(ミクだから)あり、これをコンプリートするために、毎日通っている。ちなみに7個買ってまだ5種類しかゲットしてない。恐るべし。


好きな物に金は惜しまない。惜しまないがこれは酷い。被り率が高い。高すぎる。まだ7個しか買ってないのに、2つも被りやがったのだ。


おっと、変な顔をしていると帝光中の客が何人か入ってきた。咄嗟に店の端に寄って存在を薄める。がやがやとそのグループはお菓子やらジュースやらをとって、足早に会計を済ませた。


「うわ、ミクだってよ。キモー」
「キモオタが盛り上がるなぁコレ」


なんて吐き捨てて連中は店を出た。ふん、キモオタで悪かったわね。かれこれ2年くらいそのキモオタやってるわよそれが何か?心の中でちゃんと反論。

キモいキモいと言われるのが嫌で、隠れて趣味に没頭する毎日。あー語りたい。オタだったら誰でもいいから語りたい。でも、周りにはジャニーズやモデル好きしかいなくって、私と波長が会う人なんていやしない。


「はぁ」


溜息を吐いてミクファイルの対象商品が並ぶ棚の前へ移動する。今持ってるお金で買えるのは5個くらい。ふはは、ならその全てをつぎ込んでやろうではないか。

商品をかっ攫おうとしたとき。ぱっと反対側から伸びてきた別の手と私の手が当たった。


「わ、ごめんなさいっ」
「いや、こちらこそ済まない」


顔を確認してぎょっとする。


お、おおお、お前…!帝光中の生徒じゃねーか!!!!

驚きのあまり、開いた口が塞がらない。間抜けヅラで目の前の同志様らしき人を見ていると、向こうも私にビックリしているようで。


「驚いた。同じ学校で同志がいたとは」


感心してらっしゃった。つか、なんだよこの方、かなり美形じゃね?こんな美形がオタ?は?オタって眼鏡にチェックの服でハイウエストだろ?オイ神仕事しろや。


「?何だ?」
「はっ、いえ、そ、そうですね。私もビックリです」


ジロジロ見ていると、変な子を見る目で見られてしまった。まぁ変な子なんだけど。その後、お互いの間に無言が続く。と、兎に角買おう。ミクが待ってる。商品を5つ持って美形オタに会釈をし、レジで清算を始めて貰う。下から店員さんが黒い袋に入ったファイルを5枚出して袋に入れる。どうか被りませんように。


店を出て、黒い袋を確認する。唾を飲み、袋をゆっくり開ける。どうか、被りが出てませんように。


「う、うーん」


新参4つ被り1つ。1つ被ってしまった。今までのと合わせると、3つ被りか。溜息がこぼれた。


「まぁ、被り1つなだけマシか」


被りを割り切り、家へ買える為に踵を翻る。ん、そういえば美形オタはどうなったんだろうか。ちらっと後ろをみると、袋を5つレジの人から受け取っている姿が見えた。


「…あ」
「あ」


目があってしまった。どうしようかと考えていると、美形オタが店から出てきて、私に話しかけてきた。


「結果はどうだったんだ?」
「う、うーん、新参4の被り1かな」
「よく被るからなコレ」
「そーだよね!もう被りトータル3だよー」


お互いに笑って、袋をみつめる。美形オタは、少しワクワクしたように、袋の中のファイルを確認し始めた。


「…どう?」
「被り1だな」
「あら、」


どうやら被りが出たよう。少し眉間にしわを寄せて目を伏せた。俺もこれで被り4だ、ボソッと呟いた。


「あ、あの、今日被ったファイル、見せてくれませんか?」
「あぁ、良いが」


差し出されたファイルを眺める。彼が被ったというそれは、私が持っていないやつだった。これは交渉しなければ。自分の袋から被ったファイルを出して、差し出してみた。


「あの、コレ、持ってますか?」
「ふむ、これはまだみてないな」
「私これ被ったんで、良ければ交換しませんか?」
「それは名案だな」


お互いにファイルを受け取り、袋に入れる。


「これで被り、1つ減りましたね」
「だな」


袋を見て、満足する。隣の美形オタもチラッと盗み見ると、頬が緩んでいた。嬉しそうで何よりです。


「お互い、コンプリート出来たらいいですね」
「だな」
「では、私は此方なので」
「待て」
「は、はい?」


帰ろうと方向転換をした時、腕を美形オタに掴まれてしまった。ぐっと後ろにたじろぐ身体。何ですか?と聞いてみると、名前を聞かれた。まぁこれはお決まりの展開ですよね。


「私の名を知らないとは…フフッ、愚かな人間だ。私は暗黒の使者、ダークネスフェアリー。遠き星レミュエス星より地上に降りた侵略者だ」
「…な、なんだと…?!貴様、あのレミュエス星からきたと言うのか?!フッ、なら俺の事も知っているだろう。我が名はブラッドナイト。紅蓮の宿命を胸に刻んだ、レームスの騎士とは俺の事だ」


うわぁ、乗ってきたよ美形オタ。勿体ねぇ。その顔で厨二ネタはヤバイ。私の腹筋が悲鳴をあげている。絶えるに耐え切れず、思わず吹きだしてしまった。


「ぶっは!まさかノッてくれるとは!」
「…そっちが先に仕掛けたんだろう」
「まぁいっか。改めて私は名字。名字名前。1年1組で隠れオタやってます」
「名字か。俺は赤司征十郎。バスケ部のキャプテンだ。よろしく」


差し出された手を握り返す。よろしく、赤司氏。んん?そういや赤司ってどっかで聞いたことあるようなないような。まぁ何でもいいけどね。
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