いつも夢を見る。

青空の下に佇む彼女。そして俺に気づいたら、小さく微笑み、そのまま空に融けていく。












「残念な感じになりましたが、まぁどうぞ」


机に並べられた朝食。少し焦げたパンと形の悪い卵とコーヒー。何とも普通の、いや、それ以下の食卓だ。


「何処が優雅な朝食なんだよ」
「このコーヒー豆、なかなか手に入らないやつなんですよ。何より香りがいいので」


自分で淹れたコーヒーを飲む女子学生。なんと渋いのだろうか。だが、確かに香りはいい。ゆっくりとコーヒーを啜り飲むと、ふわりと豆の香りが鼻を通った。まぁ、それなりに優雅な朝だ。


「ふふ、いい香りでしょう?」
「焦げたパンと下手くそな卵でマイナスだな」
「料理、得意じゃないんですよ」
「親は?」
「仕事で一ヶ月家を開けると言って昨日出て行きました」


丁度良かったかも知れません、なんて言って彼女は微笑んだ 。


夢で見た彼女が今、俺の前に座っている。そして俺は何故かこいつの家にいる。古いテレビから流れるニュースや、窓からの見慣れない風景。俺がいた世界とは別の所なのか。だが、彼女が身に纏っている制服は、都内でも有名な私立高の制服だ。


「オイ、端末貸せ」
「端末…?」
「…何でもいい、何か調べれるやつ」
「あ、じゃあそこにあるパソコンどうぞ」


机の脇に置いてあったノートパソコンを借りて色々と調べる。地図を開き、私立高の位置を確認する。すると、俺の知っている場所とは別の場所にその校舎が立っていた。それだけではない。ここには、銃砲刀剣類所持等取締法という法があり、国のトップは総理大臣。異能力者やストレインは存在せず、セプター4も無い。別世界…いや、パラレルワールドと言った方がしっくりくる。


「…どうかしましたか?」
「別に」
「お家には帰れそうですか?」
「まぁ、無理だろうな」
「じゃあやっぱ何かあったんじゃないですか」
「…お前には関係ねぇよ」


時計をそいつの目の前に突きつけ、用意を促す。時刻は10時。時間に気づいたそいつは目を見開き、わたわたと準備を始めた。


「公務員さんはどうしますか?」
「どうも何も、ここかどこかも知らないし」
「…うーん。留守番とか出来ますか?」「は?俺の事何と思ってんの?」
「あ、いえ…別に悪い人だとは思って無いんですけど、家から一歩も出歩かないなんて窮屈かな、と」
「俺19なんだけど」
「そうですよね」


暫くそいつは黙り込んで考える。その結果、


「決まりですね。留守番お願いします」
「結局そうなるのかよ」
「一応は侵入者何ですけど、公務員さんだから大丈夫かなって」
「…伏見、」
「へ?」
「伏見猿比古。俺の名前。お前は?」
「あ、名前です。名字名前です」
「…名前」
「は、はいっ!」
「…早く学校行ってこい」
「はいっ!伏見先輩!」
「…名前でいい、あと敬語も無し」
「え、でも…一応は年上さんですし…」
「敬語で喋られると職場思いだす」
「うーん。じゃ、猿比古くん」
「ん」
「いってきます」
「…あぁ」


軽く頭を下げ、名前は家をでた。その背中を見送り、俺は部屋に戻って情報収集をするために、パソコンの電源を付けた。
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