「…いた、」



夢の中。私は青い空の下で、あの彼を見つけた。

そこに、佇む彼は、何時もの彼だ。さぁ、話しかけてみよう。一歩前に踏み出した。


「あ、あのっ!」
「…何」


此方を一見し、彼は喋った。始めて聞いた彼の声に、大きく胸が踊る。


「どうして私の夢の中にいるのですか?」
「さぁな」
「もしかして、死んだ人とか…ですか?」
「ちゃんと生きてるから」
「すみません」


どうやら、生存している人らしい喋り方からして、彼も夢の中で意識を持つ能力があるのだろう。


「夢の中、ね」
「あれ…夢じゃないんですか?」
「いや、夢」
「私もですよ。丁度次の授業が始まった辺り、ですかね」
「学生ならおとなしく勉強しとけ」
「え、貴方は学生じゃないのですか?」
「高卒。公務員」
「わ、すごい!羨ましいです」


公務員さんは眉間に皺を寄せてため息を吐いた。日々の疲れが溜まっているのだろうか。公務員辛いですか?と、きいてみれば、それなりに、という返事とため息が帰ってきた。本日二回目のため息である。


「私でよければ、愚痴聞きますよ?」
「お前に話したところでどうにもなんないだろ」
「あら、でもいいストレス発散にはなるかと」


暫く黙り込む公務員さん。大丈夫ですか?と声を掛けてみれば、鼻で笑って小突かれた。


「気が向いたらな」


そしてふわりと消えてしまった。


「不思議な人だなぁ」


そろそろお昼の時間かも。ゆっくりと目を閉じ、現実世界へと意識を戻した。
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