私はいつも、夢を見る。



夢の中では、あの彼がいつも空を見上げていている。



そして私の存在に気づけば、私を一瞬だけ見て、そのまま空へ融けていく。






* * *




「名前ー」
「はーい」


夢から覚めた私は、いつものように布団から起き上がり、窓を開ける。外の空気は今日も良くて、思わず深呼吸。下から母がご飯出来てるわよと大きく叫んでいる。今行くよと軽く返事をし、私はリビングへと階段を駆け下りた。


「今日から一ヶ月くらい、家を開けそうだわ」
「ん、了解」
「何時もごめんなさいね」
「いーよ、仕事頑張って」
「じゃ、いってきます」
「いってらっしゃい」


家を出た母の背中を見送り、ご飯を食べ進める。今日の鮭は少し塩辛いなんて思いながらも完食。時刻は午前8時。そろそろ支度をしようかと食器を片付け、顔を洗って歯を磨き、クローゼットの中にある制服に袖を通す。黒のニーハイを履けば準備オッケー。


「いってきます」


誰も居ない我が家に手を振り、学校へと私は向かった。





「ここは〜であるからにして…」


つまらない授業を受け流し、窓から空をみる。相変わらずの青い空は、夢に出てきた彼を思い出させた。


夢にしては現実味があり過ぎる夢。いつからあの夢を見ているだろうか。…なんて言っても、随分と昔から見ているので、はっきりとは覚えていない。

肘をつき、ため息を吐く。あーつまんなんい。もう少し寝ようかしら、なんて考えていると、眠気がゆっくりと襲ってきた。どうせこの授業の教師は教科書を読む事しかしない。静かにその重たい瞼をとじた。








「あっ…」


青い空の下。そこにはいつもの彼が立っていた。そう、ここで彼は、私に気づき、そして空に消えて行くのだ。さぁ早く私に気づいて消えて。そしたら退屈な授業が終わっている頃合いだろうし。

じっと視線を送っていると、彼は私に気づいた。彼は私をちらっと見て、舌打ちをして消えていった。



「…、舌打ち…」


目を覚まし、さっきの夢を思い出す。始めての舌打ち。いつもなら何もせずにふらりと消える彼は、今日は舌打ちをしたのだ。


「次会った時は話しかけてみよう、」


幸い、私には夢で意識を持つ能力が生まれつき携わっているので、それくらいならできる。

授業の終わりを告げるチャイムが鳴り響いたのを確認し、さっきの彼に話しかけるべく、私はもう一度寝る体制に入った。淡い期待を胸に秘めながら。
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