「いいかい?この魔法は半日しか持たないからね」
「うん、」
「ちゃんと仲直りするんだよ、いいね?」
「ありがとう、銭婆」
そういって大きくなった名前の後姿は、どこか寂しい気もした。やれやれ、年寄りになるとしみじみするねぇ。
*
「…どうすればいいのやら」
ズキズキと痛む頭を抱え、私は1人で考えていた。一体、どうしたら名前と復縁できるのだろうか。そもそも、悪いのは仕事の邪魔をする名前だ、私が謝る意味がわからない。だが、名前は絶対に謝らないことは分かっているので、必然的に私が謝らないといけない。しかし、絶交をされてしまっては、話しかけることもできない。そこが困ったところなのだ。
「はぁ」
小さくため息を吐き、名前も捜索を続ける。さっきから、名前の姿がどこにも見当たらない。一体どこで丸まっているのか。本当に困った神様である。
「ハク様」
綺麗な、控えめな声が私を呼び止めた。油屋の客だろうか。
「生憎、今は忙しいんだ。すまな……」
振り返り、接待を断ろうとした。だが、その姿をよく見ると、どこかあの神に似ている。綺麗な栗色のふわりとした髪を2つに結い、巫女服を身に纏うその女性は、名前にそっくり…というより、名前をそのまま大きくしたような容姿だった。
「…名前?!」
「…うん」
「いつもの姿はどうした?」
「銭婆に半日だけ大きくしてもらった」
「銭婆?!」
まさかそんなところまで行っていたとは。それではいつまでここを探しても見つからない筈だ。
「…」
「…」
長い沈黙が続く。どうやら、気まずいのは名前も同じようだ。私から話を切り出すべきだろうか。でも、絶交されていては迂闊に話しかけられない。だが、ここで話をしなければ、この先復縁する可能性が低くなる。ここは私から。そう思い、私は話をきりだした。
「「…すまないな/…ごめんなさい」」
「「え?」」
言葉が被ってしまい、思わず顔を見合わせる。暫くすると、名前はふるふると震えだし、笑い出した。それにつられ、私も思わず頬が緩む。
「ははっ!ハク様も同じこと考えてたんだ!」
「どうやら、そのようだったな」
「へへっ…以心伝心だね」
「それより、私は話しかけてもいいのか?」
「へ?」
「絶交なのだろう?」
そういってじっと名前を見る。忽ち名前の顔が赤くなり、それはナシなんだから!なんて言ってムキに弁解した。どうやらここで、仲直りのようだ。
「やっぱりハク様好き!」
そう言って小さい時とは違う綺麗な笑顔を私に見せた。艶やかな名前とそれを見上げる私。なんだか不思議な気分だった。