ここの油屋には、大きな力を持った神がいる。


「あなたさまに、きよらかなうんめいを」


運命を司る、小さな神。


「名前ちゃん、何時もありがとね」
「うんっ!なまええらい?」
「えぇ、偉いわ」
「やったー!ほめてほめてっ」


名前は御客に自分の頭を差し出し、撫でてもらう。誉められると子供は伸びるとよくいわれたものだ。


「名前、」
「あっ!はくちゃまっ!」


私の声に反応した名前は、その舌っ足らずなしゃべり方で私の名前を呼び、笑顔で此方へ駆けてきた。


ぺちぺちぺちぺち


裸足で部屋を駆ける姿はとても懸命で、少し危なっかしい。
と、その矢先。自身が身に纏っている巫女服の緋袴の裾を踏んでしまったらしく、そのまま前にずっこけてしまった。

周りがしんと静まり、視線が名前に集まる。当の名前は、ゆっくりと身体を起こし、その場に立つ。次第に涙目になり、


「ふぇっ…うぅっ…」


泣き出した。


「名前様!大丈夫ですか?」
「うぅ…いたいよぉっ…」
「あぁ名前様…!どうしましょう…!」


周りが騒ぎ始める。名前が泣き叫ぶ。名前は泣き始めるとなかなか泣き止まない。仕方ないと私は泣いている名前に近づき、目線を合わせるために少し屈み、名前の頭を撫でた。


「はくちゃまぁ…っ」
「大丈夫かい?」
「うぇっ…ふぅっ…」
「困った神様だ」
「…ごめんなちゃいっ…」


眉を下げてさらに気分を損ねた名前。私は懐に忍ばせておいたタオルを出し、名前の瞳から溢れ出る涙をぬぐってやる。


「はくちゃまっ…」
「もう、大丈夫だよ」
「はくちゃま、ありがとーっ!」


忽ち名前の涙は止まり、花が咲いたように笑った。



少女は世界を揺する。
(いろんな意味で、世界が揺れた瞬間だった)

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