おめかし



「ハァイ名前」
「ベルモット。ごきげんよう」


名前は今日も部屋で雑誌を読んでいた。


「今日は何を熱心に読んでいるのかしら?」
「なつにむけた、もてがおおめかしじゅつ」
「あら、珍しくグルメ雑誌じゃないのね」


雑誌を覗き込めばいつものスイーツ特集ではなく、流行のメイク法が書かれているページ。ページの見出しには『食べる女はモテる!』と書いてある辺り、グルメ雑誌の特殊ページなのだろう。


「ねぇベルモット。おめかしってなぁに?」
「美しくなる為の手段ね。女はいつだって美しくあるモノなのよ」
「なるほど。ねぇベルモット。このおめかしでわたしはジンとらあめんを食べに行けるの?」







「こら、動かないの」
「く、くすぐったい」


どうやら名前はジンとラーメンを店に食べに行きたいとのことだった様子。メイクなんてしなくてもこの子には生まれ持った可愛さがある。でも、メイトでそれを引き立たせるのは私の腕の見せ所。


「さぁ、できたわよ」
「ありがとうベルモット」
「ほら、こっちを向いて。写真を撮るわよ」
「しゃ、しゃしん…」


化粧を施した名前は、いつにも増して綺麗になった。名前は、たましいをぬかれる、と言葉を漏らし、眉間にしわを寄せる。


「大丈夫よ、スマホなら魂は抜かれないわ」
「なるほど」


適当な返事をすると納得したようで、名前は私に向きなおった。カメラを起動させ、すぐに写真を撮る。写真に映る姿は、照れたように笑っていた。


「たましい、ぬかれた」
「大袈裟ね。ほら、迎えが来たわよ。一緒にラーメン食べに行ってきなさい」


丁度任務を終えたジンとウォッカが帰ってきた様子。綺麗になった名前を、ジンはただ見つめていた。


「ねぇジン。らあめんが食べたいの」
「…….なんだその顔は」
「ベルモットにおめかしをしてもらったの」
「いつにも増して綺麗ですぜい」
「ウォッカ、ありがとう。ねぇジン。わたしは貴方とらあめんを食べに行けるのかしら?」
「兄貴、聞かれてますぜ」
「……」
「兄貴?」
「ジン…?」
「何でもない…。早く支度をしろ。ウォッカは車を出せ」
「り、了解」
「行ってくれるのね!」


効果は絶大だったみたい。どことなくジンの顔が優しいように見えた。


(ほらバーボン、名前の写真よ)
(あなた方は何やってるんですか)
(あら?いらないの?)
(いります)

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